自動販売機のトマト(2023.6.11)

文字数 765文字

 烏丸通から堀川通に向けて三条通を歩くと、三条通商店街が現われる。三十年前、僕が大学生活を送っていた頃もお世話になったが、五十歳を過ぎて単身赴任を始めてからも相変わらず通ってしまう。アーケードになっているので、今日みたいな雨降りだとより便利に思う。歴史ある青果店、精肉店、魚屋から、行列ができるスイーツ屋、ラーメン屋、焼き肉屋など歩いているだけで楽しいのだ。その日の気分で、適当に寄り道する。二条城が近いので観光客もいるけれど、河原町通方面よりは少ないので、落ち着いて買い物ができる。
 
 本日、行きつけの散髪屋ですっきりとしてから、歩き始めると見慣れない自動販売機が。気になって近寄ると「トマト」だった。見るからに食べ頃という色をしており、トマト好きとしては硬貨を入れない訳にはいかない。400円かぁ…と思ったら、下段には2個で200円もあり、一人暮らしなので200円を投入する。大と小。ずしりと重い。農家の直売らしいので、期待が持てる。

 昼はパスタを茹でて、トマトサラダを添えた。でも、主役はトマトだ。包丁で切ってみて、間違いないと確信する。オリーブオイルをかけて、一口入れると、トマト好きにはたまらない、昔ながらのトマトの味がする。甘いではなく、青くさい。たぶん、トマト嫌いの人は鼻に近づいただけでダメかもしれない。トマトが好きで良かった。

 今のマンションに戻る前に、学生の頃に住んでいたマンション前を通るのだが、周りの店はみんな変わってしまった。お洒落なワインバーやスペイン料理、日本料理などなど。マンションだけは存在してくれているので、懐かしさを味わいながら一人歩く。散髪に出掛けた時は、まさか自動販売機でトマトを買って帰るとは思いもしなかった。それだけで、楽しい。そんな訳で、三条通商店街にオジサンは足繁く通うのである。
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