『すべてきみに宛てた手紙』長田弘(ちくま文庫)(2023.9.30)

文字数 747文字

 長田弘さんの考え方、生き方が感じられるエッセイです。読書、音楽、幼い頃の記憶などを通じて、広く深く楽しむことができます。言葉選びのセンスが素晴らしく、饒舌になることもなく、やはり「詩人のエッセイ」だなぁ、と思います。

 どうしてこういう風に書けるのだろうか。こういう風に書きたい。長田弘さんの詩、エッセイは僕の憧れで、嫉妬すら覚える。だからと言って真似たところで、本家を超えられるはずもないから、僕は違う書き方をするしかないのだが、本当は「長田弘」みたいに書きたい。そして、本当は「長田弘」になりたい。

 『すべてきみに宛てた手紙』を読んで、超えるなんて夢のまた夢で、真似ることすらできない、と改めて実感している。思考力、知識力、言葉力そして人間力。僕とは雲泥の差がある。いくら憧れても指先も届かない。悔しいけれど、それが現実だ。間違いなく、僕は長田弘さんのような詩や文章は書けない。たぶん、僕以外の人はみんな分かっていることに、今頃気づいた。

 という訳で、僕の「長田弘」への憧れと挫折(独り相撲)に関する前置きが長くなったが、『すべてきみに宛てた手紙』についての感想をそろそろ。


 わたしたちの中にいる自分は、言葉をもたない自分です。あるいは、言葉に表すことのできな い自分です。/それにしても、「人」の見えない時代になりました。/カフェ・オ・レに必要なもう一つのものは、孤独。コーヒーを飲みながら、ひとと話すことはすべきでない。おいしいコーヒーに、言葉は不要。黙って、飲むこと。/必要なのは、おしゃべりでなく、言葉です。


 ひとり、コーヒーを飲みながらこれらの言葉を味わう幸せが『すべてきみに宛てた手紙』にはあります。結局、感想も書けずにコーヒーを飲んでいる。なにせ「言葉は不要」なのですから。 
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