『この世にたやすい仕事はない』津村記久子(新潮文庫)(2024.3.5)

文字数 479文字

 津村さんの小説は何冊目だろう? なぜか、意外と読んでいる作家だ。

 視点が面白い。切り口と言ってもいいかも。

 『この世にたやすい仕事はない』も、そんな仕事があるんだぁ、とついつい引き込まれるストーリーなのだが、行くところ行くところで些細な事件が起きる。事件と呼ぶほどの事件でもない事件だが、その塩梅が絶妙なのだ。

 ストレスに耐えかねて大学卒業後から働き続けた職場を退職した主人公が、職安で紹介される仕事(派遣社員)に従事するのだが、「みはり」「バスのアナウンス」「おかきの袋」「路地を訪ねる」「大きな森の小屋での簡単な」しごとと言った具合に、不可思議な仕事ばかりなのだ。でも、楽しみながら、苦しみながら、迷いながら、どれもそれなりにこなしてしまうから、きっと能力が高いのだと思う。

 この小説は何を語ろうとしているのだろう? ためになるとか、大笑いするとか、泣いてしまうなんてことはない。ただ、読み終えて本を閉じ『この世にたやすい仕事はない』というタイトルを目にすると、実にしっくりとくるのだ。津村さんの筆力だからこそ、書き上げることができた仕事小説だと思う。
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