『話し言葉で読める「方丈記」』長尾剛(PHP研究所)(2022.8.14)

文字数 662文字

 やはり僕は定年退職、隠居、隠遁生活に興味がシフトしているようで、本著を読みながら、少し羨ましく感じた。どこかしら、鎌倉時代版『寂しい生活』みたいな感じ、いや『寂しい生活』が現代版『方丈記』なのか。まぁ、どちらでもいいや。
 鴨長明は、父親を早く亡くしたことで人生が変わって(没落)しまったので、親類や世間への不満があちらこちらに感じられ、悟った人という印象はない。出世など、足の引っ張り合いに辟易して庵を構えた風(実際は出世の可能性が限りなく低いという諦めモードからのフェードアウト)で、完全に世を捨てていないところが、個人的には好感が持てる。忘れ去られたくないから、筆を執り、楽器を奏でるのだが、それは才能があって、世間が求めるからで仕方ないじゃん、という自画自賛も見えて面白い。悟った人を期待して読むと、俗世間との関係を断ち切れない中途半端な爺さんということになるが、人間臭くて僕は好きだ。
 『寂しい生活』の稲垣さんもそうだが、極端に世間離れした生活を送りつつも、世間とも通じる、みたいなスタンスが僕の目指すところかもしれない。
 長尾氏が「話し言葉で読める」ように、原文にない加筆や説明をしているので、飽きることなく読むことができた。その昔、僕は国文学を専攻していたが、近現代文学のゼミだったので古文は専門外なのだ。古文が苦手だから、近現代文学のゼミを選んだという説もある。
 何はともあれ、こうして鎌倉時代の随筆が現代でも読み継がれることは奇跡だと思う。「方丈記」の素晴らしさと、鴨長明という人間を知るにはおススメです。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み