『自転しながら公転する』山本文緒(新潮社)(2023.9.2)

文字数 529文字

 小説はフィクションである。しかし、リアルがある。だから、この小説は読者を惹きつけるのだろう。たぶん、山本さんは50歳過ぎのオジサンをターゲットにしていないから、僕が感じるリアルは想像の域を出ない。でも、きっと30歳前後の女性は、もちろん全員ではないが、リアルを感じ、あるいは自身に重ねて読むと思う。
 プロローグとエピローグは賛否両論あるようだが、本編に没入しすぎてエピローグになるまで、プロローグを忘れていた。なかなか良くできた構成だと思うが、不要という意見も分かるような気がする。まさに賛否両論だろう。でも、山本さんが必要と思ったのだから、それが正解だと考えるべきだ。
 主人公の都と貫一の物語は、お互いに劣等感や偏見を抱えながら、常に壁や一定の距離を保ち、踏み込まないままの関係性で、いよいよ乗り越えたと思うと、新たな障害が生まれ、いよいよゴールかと思ったら、真っ逆さまに落ちるところまで落ちて……の繰り返しで、もう終わりかと思うと、まだ火が消えていない、みたいな展開だ。そういう意味では、確かにプロローグとエピローグが大きな意味を持っている気がする。

 良い小説は誰かに紹介したくなる。『自転しながら公転する』は機会があれば、是非とも読んで欲しい小説だ。
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