「最初の友人」長田弘(2023.5.5)

文字数 751文字

 詩人長田弘は読めば読むほど、遠くなる。どうして、こんな詩が書けるのだろう? と嫉妬してしまう。さらりと読ませるのに、グイッと心が掴まれる強さがある。まるで音楽のようであり、あるいは差し向かいで珈琲を飲んだり、ウイスキーを傾けている気持ちになる親近感もあるのだけれど、知れば知るほど圧倒されてしまう。
 構えない人なのに、隙がない。その昔、剣道をしていたが、強い人は構えが自然体でいくらでも打ち込めそうなのに、いざ打ち込もうとすると、間合いを詰めるのが怖くなり、打ち込んでもいとも簡単に避けられ、気づいたら一本取られているのだ。長田弘の詩はまさに、剣の道の一流の構えである。
 詩集『記憶のつくり方』に収録されている「最初の友人」は、詩の中にものすごい濃厚な時間が詰め込まれている。こんなことってあるのだろうか? 読み終えて、僕は呆然としてしまった。あまりにもショッキングな出来事で。にもかかわらず、長田弘は淡々と書いている。感情移入することなく、事実を真っ直ぐに書いているのだが、その文体がより一層、読者の心を揺さぶるのだ。

 わたしの最初の友人の、わたしは最後の友人だった。

 詩の終わり方から、ドラマは想像できるかもしれない。それでも、長田弘の展開力は抜群だと思う。分かっているのに、何度読んでも僕はハッとするし、唸ってしまう。とてつもなく深く、彼の記憶に残っていた「最初の友人」を書いた時、長田弘は詩を通じて最初の友人と再会したに違いない。そうあって欲しいと思う。
 
 詩を書くと、ついつい声高になってしまうのだが、長田弘は常に第三者の視点から書いているように思える。僕の憧れの存在だ。ほぼ毎日『長田弘全詩集』(みすず書房)をパラパラと読んでから眠るようにしている。素晴らしいというより、素敵な詩人です。
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