『ロマノフ家12の物語』中野京子(光文社新書)(2023.6.7)

文字数 795文字

 何年も前になるが「日曜美術館」でイコン画家の山下りん特集を観た時に、祈りにも似た強い衝撃を受けて、彼女の作品と人生にとても興味を持った。いつか作品を直接観たいと思いつつ、観る機会のないまま時が過ぎ、でもどこかで山下りんという名前はずっと燻っていて、最近、偶然に山下りんに関する記事を読んだら、第二次山下りんマイブームが起き、本作品と朝井まかて『白光』を衝動的に買ってしまったのだ。
 『ロマノフ家12の物語』で山下りんが扱われているのは第10章のみだから、残りの11章は全く関係のない物語である。しかし、ロマノフ家の歴史が第1章から描かれている訳だから、やはり山下りんに至るまでの流れを掴むために頭から読むことにした。
 中野京子さんは、やはり面白い。そして、やはり怖い。ロマノフ家には大して興味はなかったが、異常とも言える残虐な歴史の繰り返しに、すっかり逃げ腰になりつつ、怖いもの見たさに「次」が気になり、絵画にも文章にもすっかりと引き込まれてしまった。
 ほんと、人間は怖いなぁと思う。けれど、日本だって昔は天皇をめぐって様々な物語が存在した訳で、どこの国も同じなのだと思うしかない。ただ、それにしても度を超えた権力抗争や親子、兄弟による暗殺など、この薄い新書によくぞ詰め込んだと褒めたくなるくらい、異常の連続である。読み進めるうちに、異常が当たり前になって、完全に麻痺してしまった。
 
 さて、本題の山下りんである。イコン画「ハリストス 復活」は、やはり独特な澄み切った感と深味があり、実に素晴らしいと思う。現在はエルミタージュ美術館に収蔵されているそうだ。ロマノフ家とどのように関わったのかは、やはりイコン画がきっかけであり、運命もロマノフ家とともに翻弄される。自分でも、どうしてこれほどまでに山下りんに惹き込まれるのか分からないでいるのだが、理由を超えた何かがあるのだろうと考えている。
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