『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』坂本龍一(新潮社)(2023.8.6)

文字数 659文字

 『音楽は自由にする』は読んでいて楽しくて、ハイペースで読めたのだが、亡くなってから出版された『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』はなかなか読み進めることができなかった。死に近づくにつれ、読んでいてつらくなったから。しかし、最期まで音楽家として、環境活動家として、発信し続けたことには頭が下がる。最後の演奏映像、誕生日にリリースした最後のアルバム、亡くなった時にアップする朽ちたピアノの画像、葬儀で流す音楽など。すべてを準備して、逝ったのだ。天才音楽家ではなく、人間として命を全うしたと、本作を読み終えて思う。もちろん、71歳はまだ若いし、本人はやりたいことがたくさんあったに違いない。

 坂本龍一の音楽を聞きながら読み進めたのだが、毎晩「あぁ、もう亡くなったんだな」と思い、不思議な気持ちになるのだ。もちろん、『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』を読めば、坂本龍一が考えていたこと、語りたかったことが全て分かる訳ではない。限られた時間の中で、音源として、映像として、文章として、もっともベストと思われる方法で発信したのだろうし、語りたくないことは語らなかったはずだから、坂本龍一を知る一つの手段として本作を捉えている。

 死ぬ前に納得のいく演奏を記録することができてホッとしています。(「Playing the Piano 2022」)

 それでは、ぼくの話はひとまずここで終わります。
 Ars longa,vita brevis.(芸術は永く、人生は短し)

 付箋だらけになったが、折に触れて読み直したい。そんな一冊です。
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