『白光』朝井まかて(文藝春秋)(2023.8.24)

文字数 505文字

 ロシア正教の聖像画師である山下りんの物語である。
 以前にも『ロマノフ家12の物語』中野京子(光文社新書)(2023.6.7)で触れているが、僕は山下りんのイコン画にとても惹かれる。朝井まかての『白光』を読んで、イコン画とは何なのかを改めて知り、芸術との相違を理解した。なるほど、だから署名がないのか……。聖書を題材に画家が描く絵画とは違うのだ。当たり前と言ってしまえば当たり前なのだが、僕は山下りんの作品を芸術として捉えていたので、そのギャップに驚きながら読み進めた。そして、その間で彼女自身も大いに悩み、ロシア留学、心身を壊しての帰国、自信の信仰心とイコン画へのズレにより教会を出ることで揺れに揺れた後、聖像画師として生きていくことを決意する。きっと、画家として生きたとしても大成したと思うけれど、ロシア正教、ニコライ師との出会いが彼女の道を決めた。とても強く、不思議な人生である。
 そして、母多免、兄重房と家族、弟峯次郎との強い結びつきが、心を震わせる。特に兄重房の晩年に訪れる悲劇と妹りんとの心が通う場面は思い出すだけで涙がこみ上げる。
 山下りんという聖像画師がいたことを多くの人に知ってもらいたい。
 
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