「夕焼け」吉野弘(2023.12.23)

文字数 485文字

 今、『吉野弘詩集』(岩波文庫)を読んでいる途中なのだが、「夕焼け」を読んであまりに素晴らしかったので、書かずにはいられない気分になった。中学校か高校の教科書で読んで、とても印象深い詩だったから、読み始めて直ぐに「あぁ、懐かしい」と思ったのだけれど、あの頃よりも53歳になった今の方が断然沁みる。自分の立ち位置が、登場人物の娘よりも、著者に近い年齢になったということもあるのだろう。娘の体の動き(老人に席を譲る)を書きつつ、実は心の動きも描いているという点が実に効いている。心の動きが体の動きを封じる結果になっている点に注目したい。やはり、心身は一体なのだ。

何故って/やさしい心の持主は/他人のつらさを自分のつらさのように/感じるから。/やさ  しい心に責められながら/娘はどこまでゆけるのだろう。

 実に切ない。特に「やさしい心に責められながら」はグッと迫ってくる。そして終連へと展開していくのだが、この三行はあまりにも有名だ。

下唇を噛んで/つらい気持ちで/美しい夕焼けも見ないで。

 畳み掛ける、というか、スパっとした切れ味で、脱帽するしかない。本当に素晴らしい詩です。

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