ジイサンの頭突き(2022.8.4)

文字数 421文字

 21時を過ぎて、目の疲れがピークを超えたので、仕事を片付ける。体力、気力、知力ではなく、最近は眼力が限界の合図になった。遠近両用眼鏡が微妙に定まらなくなるのだ。
 目薬を点してから会社を出る。
 地下鉄へ向かう自動ドアはタッチ式で【手を近づけてください】に触れなければならない。コロナ禍以降、手を伸ばすことを躊躇うようになり、誰かが開けた直後に通過する作戦を継続している。今晩も、老人が少し前を歩いているので、程良い距離感で続く。
 両手にボストンバッグを下げた老人は、【手を近づけてください】前で立ち止まり、頭を下げて頭突きした。
 あまりに驚いて、立ち止まってしまい、誰かが開けた直後に通過する作戦は失敗に終わる。次の誰かが体のどこかで触れるまで待つことにする。【手を近づけてください】は「手」だけなのだと思っていたが、「頭」でも良かったのだ。
 半世紀も生きると、驚くこともなくなるものだが、ジイサンの頭突きはジダンの頭突き並みに衝撃的だった。
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