『秋山善吉公務店』中山七里(光文社文庫)(2023.10.3)

文字数 405文字

 僕が普段、あまり読まない類の小説だからなのか、読了後に不思議な感覚に包まれた。読み終えて、そうだったのかという納得感と、心の温かさ、一方でぽっかりと大きな穴も感じる。どこにでもありそうで、どこにでもない。僕が幼い頃だったら当たり前だった風景は、今ではノスタルジーになってしまったらしい。家族、血族の強さと愛おしさは、何も優しさだけが基盤ではないと教えてくれる。普通のようで普通ではない祖父母の存在感が本小説のキモになっているのだが、老人ふたりが、事件というか試練に巻き込まれる孫と嫁を見事な働きで救い、立ち直らせる展開はとても痛快だ。リアリティとフィクションのちょうど間を捉えたような出来事の連続が、読者の心をグイと引っ張り、火事で亡くなった父親は失火か放火か、というミステリー要素もしっかりと加味されており、心憎いほどに気の利いた小説になっている。
 
 秋山善吉

 僕もすっかりこの爺さんに魅せられてしまった。
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