井田幸昌展「Panta Rhei」京セラ美術館(2023.11.3)

文字数 1,402文字

 本屋で『100年後への置き手紙』という書籍を目にして、タイトルと表紙に惹きつけられ、きっと現代美術の大家が書いたのだろうな、と思ったら若い画家だった。1990年生まれの33歳。井田幸昌については、名前も作品も知らなかったが、一発で名前を憶えた。

 書店に書籍が積まれていたのは、京セラ美術館で企画展が開催されるからと知り、とにかくこの目で見たいと強く思った。何というか、ギラつくというか、井田幸昌という人間の強烈な熱を感じたのだ。

 10月までは土日も仕事をしていたので行けなかったのだが、ようやく11月となり、満を持して、出掛けることにした。事前予約が必要かどうかを調べたら、事前予約は不要であることが分かったとともに、なんと!! 本日11月3日は井田幸昌氏本人によるトークイベントがあることを知り、16:30の回に合わせて家を出た。トークイベント前に一通り作品を観終えようと一時間ほど会場を歩いたのだが、7つの空間でポートレート、ブロンズ像、具象、抽象、End of todayシリーズ、木彫、井田版「最後の晩餐」という構成となっていた。7つの空間に分かれているものの、それぞれはリンクしていて、井田幸昌が画家であり現代美術家であることが良く分かる。表現せずにはいられない、とにかく表現したい、という思いが伝わってきた。作品からは、本屋で『100年後への置き手紙』を目にした数十倍の熱量を感じた。End of todayシリーズは、毎日小さな作品描いたもので、画家による絵日記みたいなものだが、テーマも色彩も様々で、一枚一枚丁寧に見ると画家の心の揺れが見えるようで興味深かった。僕も毎日「詩」を書いているが、毎日書くことで見えてくるものもあるし、何よりも大作へのモチーフ作りになるので大切な行為であると改めて認識した。あくまでも行為が同じという意味で、レベルは比べることのできない違いがある。

 そして、井田幸昌氏の登場である。具象の間から、作品の背景などを話してくれる。狙いとか、当時の心の状態などをはっきりと話されるので、作品鑑賞がより深まった。井田氏が若いので、イベントに参加しているギャラリーはもっと若い人が多く、たぶん美大生なんだろうな、という雰囲気の若者も多かった。僕は上から数えたら、片手に入ったと思う。

 井田氏の言葉で印象に残っているのは「表層の一番上しか知らない」というものだった。何層にも塗り固められた油性絵具を見せながら、「皆さんとは初対面で、今見えているのは表層の一番上だけ。でもその下に何層にも絵の具がある訳です。それは皆さんが生きて来られた日々という意味になります。でも、それは僕らには見えない。僕らが見えているのは一番上だけなのだ」という内容で、一番上の下にはたくさんの過去があることを知らなければならない、という締めだった。とても上手いことを言うな、と思ったけれど、妙に納得させられた。やはり最前線でアートする人の言葉は面白いと思った。

 井田氏は作品を「この子」「あの子」と呼んでいた。作品と画家の関係性が分かるトークで何だかほっこりとした。とても堂々としていたが、やはり33歳の若さは尖っており、パワーに満ち溢れていると実感した。                                                                      
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