『鬱の本』(点滅社)(2024.5.14)

文字数 722文字

 京都の小さな書店で装丁が気に入り、手に取った。

 『鬱の本』(点滅社)

 憂鬱な日々ではあるが、病むほどではないので、たぶん僕は読者対象外だろうと思った。
 帯には「84人のエッセイ集」と書いてあり、本を開くと「うつの治療法などは書かれていない」と丁寧に説明されている。目次を見ると、谷川俊太郎、町田康、山崎ナオコーラなどの知っている名前もあるが、ほとんどは知らない。

 パラパラと試し読みしてみると、鬱病の人もいれば、憂鬱な気分について書いている人もいる。そして、なぜだか落ち着く。絶望でも希望でもなく、まぁ仕方ない、というスタンスなのだ。あるいは、まぁなんとかなるでしょ、という感じ。無理せず、そのままでいいよ、とむしろ慰められた気分になるから不思議である。

 点滅社という出版社を知らなかったので、いつもの大型書店では売っていないかもしれないと思い、ここで出合ったのは運命だと信じてレジに向かった。

 『鬱の本』(点滅社)

 なかなか手に取りにくい人もいるかもしれないけれど、ほんとうに良いエッセイ集だと思う。特に、僕のように「憂鬱な日々」を過ごしつつも、鬱病にはなっていない人にはおすすめする。おそらく、鬱病で苦しんでいる人々にも理解され、支持されるのではないかと思う。前向きでもなく、後ろ向きでもなく、ニュートラルだから、読んでいて心が中和される。

 僕が好きなのは「犬に限らず」(阿達茉莉子)、「悪意の手記を携えて」(第二灯台守)、「かけ算とわり算」(永井祐)、「明日できることは、明日やる」(中山亜弓)、「それがかえって」(松下育男)といったあたりだ。ひとつひとつは見開きで読み切れてしまうので、きっと誰にも好きなエッセイが見つけられると思う。
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