第227話 まつわりつくよ

文字数 1,632文字

 航路は順調

 ギャランは整備工場の実直かつ反社すら叱り飛ばして改心させる社長の渾身のチューニングを経てまるで新車の時の輝きに還ったような走りを観せるよ

 5歳のわたしがこういう描写ができるのもシャムの生まれ変わり死に変わりしてきたその記憶が水が高いところから低いところに流れるがごとくにわたしに注入されるから

 そうだよ

 わたしがシャムにまつわりつく側なんだよね

「ミコ 疲れない?」
「ううん 平気 シャムの気がどんどん流れ込んでくるから『そうか? シャムはどっちかっていうと基本ネガティブな性質で気を振うというよりは沈み込むことが多かったように思うがな』ゲンム もちろんそういう側面もあるだろうけどシャムは気力に満ちてるよ『そうか?ミコは実体を伴うシャムとは遭ったことが無いのにわかるのか?』うんわかるよ シャムのパーツのサイズに至るまで」

 わたしは比喩として言ってるわけでも大袈裟に言ってるわけでもないんだよね

 シャムにはその存在を他者にすんなりと受け入れさせる素直さがあるよ

 それは表面上の性格とか面と向かった時の付き合いにくさとかいったものは一切関係ないよ

 ほんとうのコミュニケーションはジェリー状のココロとココロが青と黄色のスライムが、ぐに、ってそのまんまぶつかってうにうにと混ざり合って緑色になるようなそういうものだよ

「ミコのその感覚で言ったらコミュ障の定義って変わってくるね」
「そうだよモヤ 吃音のひとだってコミュ障なんかじゃない むしろ弁舌爽やかだったり表向きは気が利いたり如才ない対応をしたりするひとが実はコミュ障だったりするよ あそれからね」
「『?』」
「プレゼンの上手い人こそコミュ障を疑った方がいいよ」

 プレゼン力なんてことがビジネスの場でも学問の場でも下手をすると小学生にすら適用されてたけれども

 プレゼンこそが肚のない、首から上だけの人間を作ったよ

 ううん、首から上どころか、口唇だけの人間を生み出してきたよ

「シャムが過去世で教師を目指した時」
「あ そんなことがあったの?」
「うん でね 教師になるにあたって色々なテストを受けるんだけども、プレゼンというか説明するのが上手いことが重要な能力なんだって言われて結局シャムは教師にはなれず『ふうん なんかわかるような気がするな』でしょ?ゲンムもそう思うでしょ?『ああ プレゼンの上手い奴が中身まであるように見えてしまうからな SNSの映えとおんなじだな」
「あ そうか そういえばそうだ」

 良さげに観えるものにひとはまつわるクセがある

 それじゃだめだよ

「『政治家の演説がいい例だ 選挙の時は声を張り上げて耳障りのいい施策だとか対抗馬よりも自分の方が経験値もあるようなことを言い立ててるけれどもそんなものは行動の裏付けなんかじゃない 人生の裏付けなんかじゃない 口先だけでマイクを握る反対の手を振り上げて対抗馬を‘こんな人たち’呼ばわりしてまるで自分が武士でもあるかのような印象操作をしたところでべらべら喋り立てた公約を履行することの担保には一切ならない まことを行う担保にならない』」

 わたしはゲンムの口惜しそうな手話を一気に同時通訳してそうして一呼吸おいてから偈でもって応じたよ

まこと国士というのなら

まことにまつわるはずだろう

まことの武士というのなら

口より先に行が立つ

まことの臣下というのなら

どこどこまでもいつまでも

君にまつろうはずだろが

君にまつわるはずだろが

それを我こそ王じゃぞと

腹の中ではあっかんべ

ニタリニタリであっかんべ

その場しのぎでいいのだと

顔色つくって人騙す

ほんとのまことの臣下なら

プレゼン演説なもいらぬ

我の肚をかち割りて

まことのこころを見せぞかし

比喩やたとえでないぞいね

誠心誠意まことなら

たどたどしくも慈悲生まる

どもりどもりも力ある

詭弁のプレゼン策士ども

我のまことを受けてみろ

我らのまことぶつけるぞ

武士というなら受けて立て

国是を言うなら受けて立て

そなたがもしも張子なら

即刻改心あらためろ
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