第155話 法を弘めるは妙服なり
文字数 1,123文字
第四十八番札所 清滝山 安養院 西林寺
第四十九番札所 西林山 三条院 浄土寺
こういうことを言っていいのかな
楽しいんだよね
もちろん素敵ガールのモヤや思いがけず同行してくれたシナリちゃんと一緒だからっていうこともあるけれども、それよりも何よりも楽しいんだよわたしは
弘法が
「けどシナリってすごい名前だよね。『志が成る』で志成だからね」
「モヤさんありがとうございます。母がつけてくれた名前なんです」
「え。そうなの?てっきりお父さんかおばあさんがつけてくれたのかと思ってた」
「わたしが生まれてからしばらくして父は他界しました」
モヤの表情が一瞬で曇った
「ごめん」
「そんな。モヤさんこそ辛いご経験を」
「わたしは引き取ってくれたご坊が素晴らしいひとだったからね。シナリのお父さんも素晴らしいひとだったんだろうね」
「わたしが生まれて名前をつける前に急逝しましたから写真しか観たことがありません。古風なひとだったらしくて母とのツーショットすらないんですよ。わたしが持っているのは葬儀の際の制服の写真だけです」
「制服」
「はい。消防士でした。火災の起きた老健施設の利用者さんを3名救助して殉職しました」
やっぱり
でなければこの名前を思いつかなかったろう
「お母さまがシナリちゃんに託した『志』って?」
「はい。祖母と違って母はごく普通のひとです。決して大袈裟なものではないんです」
おばあさまが普通でないのは先刻理解している
「母が言う志は…『将来結婚してお父さんの生まれ変わりを産んでちょうだい』です」
シナリちゃんの笑顔
涙が滲むよ
そうしてシナリちゃんのお母さまはお父さまの弟さん、つまりシナリちゃんの叔父さまと再婚なさったそうだ
それもすごい
新しい父親は兄の遺志を継いで本家たる生家を守ろうと誓いを立てて今日に至っている
「今のお父さんが素晴らしいことはシナリを観ればわかるよ」
「モヤさん、ありがとうございます」
ちょうど週末にかかるタイミングで学校も休みなので松山市内だけだけれどもシナリちゃんが泊まりがけでわたしたちのお遍路に同行することをおばあさまとご両親は承諾してくださった
一応、わたしとモヤがテレビ電話で顔を観せて挨拶したらおばあさまがね
「ふたりとも普通の人間でないね」
と豪快にお笑いになってさ
まあでもそこだけが心配かな
わたしとモヤはもはや躊躇したり遠慮会釈する必要がないから振り切った状況へと足を跨ぐことができる
異世界なんかじゃないよ
ほんとうの世界へ
「シナリちゃん。ヘンなもの観たり少し怖かったりまあまあ異常な体験をするかもしれないけど、いい?」
わたしがそう訊くと彼女は笑った
「はい。それも虚空蔵求聞持法のための準備ですよね」
第四十九番札所 西林山 三条院 浄土寺
こういうことを言っていいのかな
楽しいんだよね
もちろん素敵ガールのモヤや思いがけず同行してくれたシナリちゃんと一緒だからっていうこともあるけれども、それよりも何よりも楽しいんだよわたしは
弘法が
「けどシナリってすごい名前だよね。『志が成る』で志成だからね」
「モヤさんありがとうございます。母がつけてくれた名前なんです」
「え。そうなの?てっきりお父さんかおばあさんがつけてくれたのかと思ってた」
「わたしが生まれてからしばらくして父は他界しました」
モヤの表情が一瞬で曇った
「ごめん」
「そんな。モヤさんこそ辛いご経験を」
「わたしは引き取ってくれたご坊が素晴らしいひとだったからね。シナリのお父さんも素晴らしいひとだったんだろうね」
「わたしが生まれて名前をつける前に急逝しましたから写真しか観たことがありません。古風なひとだったらしくて母とのツーショットすらないんですよ。わたしが持っているのは葬儀の際の制服の写真だけです」
「制服」
「はい。消防士でした。火災の起きた老健施設の利用者さんを3名救助して殉職しました」
やっぱり
でなければこの名前を思いつかなかったろう
「お母さまがシナリちゃんに託した『志』って?」
「はい。祖母と違って母はごく普通のひとです。決して大袈裟なものではないんです」
おばあさまが普通でないのは先刻理解している
「母が言う志は…『将来結婚してお父さんの生まれ変わりを産んでちょうだい』です」
シナリちゃんの笑顔
涙が滲むよ
そうしてシナリちゃんのお母さまはお父さまの弟さん、つまりシナリちゃんの叔父さまと再婚なさったそうだ
それもすごい
新しい父親は兄の遺志を継いで本家たる生家を守ろうと誓いを立てて今日に至っている
「今のお父さんが素晴らしいことはシナリを観ればわかるよ」
「モヤさん、ありがとうございます」
ちょうど週末にかかるタイミングで学校も休みなので松山市内だけだけれどもシナリちゃんが泊まりがけでわたしたちのお遍路に同行することをおばあさまとご両親は承諾してくださった
一応、わたしとモヤがテレビ電話で顔を観せて挨拶したらおばあさまがね
「ふたりとも普通の人間でないね」
と豪快にお笑いになってさ
まあでもそこだけが心配かな
わたしとモヤはもはや躊躇したり遠慮会釈する必要がないから振り切った状況へと足を跨ぐことができる
異世界なんかじゃないよ
ほんとうの世界へ
「シナリちゃん。ヘンなもの観たり少し怖かったりまあまあ異常な体験をするかもしれないけど、いい?」
わたしがそう訊くと彼女は笑った
「はい。それも虚空蔵求聞持法のための準備ですよね」