第156話 狭きはわが世なりけり
文字数 2,102文字
第五十番札所 東山 瑠璃光院 繁多寺 に参拝して、わたしたちはシナリちゃんに訊いた
「晩御飯、何がいい?」
意外な答えが
「ハンバーガーを…」
それもとても恥ずかしそうに言ってきた
「やっぱりシナリも今時の女子高生なんだね」
「いいえ」
モヤがからかうように言うとシナリちゃんはかなりキッパリと否定した
「だってわたしハンバーガー食べたことないんです」
ハンバーガー
フライドポテト
クレープ
タピオカ
コーラ
「え?コーラって…コーラを飲んだことないの?」
「はいそうですよモヤさん」
「なんで」
「骨が溶けるからだそうです」
おばあさまがスパルタなんだね
殉職した消防士のシナリちゃんの実のお父さんは現代かと疑うような古武士のような育てられ方をおばあさまからされたらしい
でもだからだよね
最期も武士の如く職務に殉じてさ
「インスタント食品もダメなんです」
「うわあ」
「だから、あるドラマでインスタント食品の開発者を褒め称える描写があったんですけれども、ものすご〜く渋い顔をしてました」
それはわたしもわかる
時として世の利便性を究極に追求し向上させた商品は、まるでそれが世のすべてで哲学的でもあるかのような過剰評価を受けたりする
インスタント食品
ファストフード
コンビニの鳥のからあげまで
そうしてさらにおかしなことに、ある菓子メーカーの駄菓子を食のメルクマールのごとく賞賛する社会学者までいたりする
とにもかくにもシナリちゃんは今の世であればいい大人までが子供じみた味覚と食習慣でもって自制きかずに食べ続けているものを一切食べておらず、だから一度食べてみたかったのだという
そうして世間は狭い
「おー、シネリだよ」
シネリ?
「あーほんとだー、シネリだー。シネリのくせにハンバーガー屋に来ていいと思ってんのー?」
「てか水だけ飲んでんじゃないのー?」
「水なんかハンバーガー屋で出ないよー」
シネリの意味がわかった
死ねリ、らしい
「どーでもいいけど早く死ねよー」
「そうだよー。アンタ観てると腹立ってイラついてどうにもなんないんだよー。自殺でも他殺でもいいからさっさと死んで?」
どうやらシナリちゃんと同じ高校の生徒らしいその女子たちが言えぬこと無しでシナリちゃんをいたぶっていることにモヤが反撃しようとしたけれどもわたしはモヤを制した
「シャム、なんで止めるの?」
「モヤ。観て」
シナリちゃんの口元を観るようモヤに促す
驚いたよ、わたしもモヤも
「南無大師遍照金剛南無大師遍照金剛南無大師遍照金剛…」
ずっとお大師さまを念じていたんだよシナリちゃんは
モヤを制してわたしが高校生女子たちに告げた
「シナリちゃんは受け取っていない。今言った暴言と妄言はあなたたちのカラダに残って乳酸みたいにあなたたち自身の不調の原因になる」
「ないよ。そんなこと」
「むしろ死ねリの方がじゃねえの?社交性ゼロだし」
「じゃあ観せてあげようか」
別に特別なことをするわけじゃない
わたしは、脳波に沁みるような、その映像を同級生たちに捩じ込んだ
「えっ」
カップラーメンのチリチリした形状の麺が、転んで圧迫骨折したことが原因で寝たきりとなってけれども親族は全員自分の『自己実現』のためにかまけており誰も同居したり通いで介護をしてくれる人間はおらず、そのワーム状の麺が口だけでなく
鼻腔からはみ出ている自分の姿を
「う」
インスタント食品の成分が自らのカラダが許容する質量が飽和状態になって
皮膚に白い脂状のカスが垢のように浮かび上がっている姿を
「げえ」
カフェインと不自然な甘味料の絶妙な配合でナチュラルなドラッグ効果を慢性的に作り出す炭酸飲料水が、胃液と混じりあって
渋い味が食道を逆流してきてその効果で誤嚥性肺炎を起こして
けれども死ねなくて
全員がシモの世話をされながら、死ぬまで生きるという生活を
生活…
「生活って生きるための活動だから、あなたたちがやってる食事も、シナリちゃんを嘲っていることも、生きるための活動じゃなくて、死ぬための活動だよね…ううん、死ぬことすら叶わない世代だね、あなたたちって」
わたしは自問自答する意味も込めて告げた
「生ける屍って、自分で考えてモノを食べるんじゃなくて、みんながやってるからって映えやら『調理に凝ってみました』やらただ単に食材を切っているだけなのに接写で玄人っぽく雰囲気出して動画に上げたりとか…そういうことでしょう。ところで訊くけど、シナリちゃんは生ける屍?それともあなたたちが生ける屍?どっち?」
「シ、死ねリに学校で呼吸する瞬間もないぐらいいたぶってやる」
「やってみれば?やろうとした瞬間にまた今の映像を『捩じ込ん』であげるから」
「そんなことが」
「できるんだよ。現に今アナタが観てるのはじゃあなんなんだと思うの?」
・・・・・・・・
シナリちゃん初バーガーの感想は、
「化学的にはおいしい」」
だった。
「シャム。ところで今晩の宿はさ、カプセルホテルにしない?」
「?どうして?」
モヤが言ったよ
「3人並んだカプセルに頭を突っ込んで世の狭さを実感したくて」
そうかもね
大草原で眠るにも
川の字になって寝るかも
「晩御飯、何がいい?」
意外な答えが
「ハンバーガーを…」
それもとても恥ずかしそうに言ってきた
「やっぱりシナリも今時の女子高生なんだね」
「いいえ」
モヤがからかうように言うとシナリちゃんはかなりキッパリと否定した
「だってわたしハンバーガー食べたことないんです」
ハンバーガー
フライドポテト
クレープ
タピオカ
コーラ
「え?コーラって…コーラを飲んだことないの?」
「はいそうですよモヤさん」
「なんで」
「骨が溶けるからだそうです」
おばあさまがスパルタなんだね
殉職した消防士のシナリちゃんの実のお父さんは現代かと疑うような古武士のような育てられ方をおばあさまからされたらしい
でもだからだよね
最期も武士の如く職務に殉じてさ
「インスタント食品もダメなんです」
「うわあ」
「だから、あるドラマでインスタント食品の開発者を褒め称える描写があったんですけれども、ものすご〜く渋い顔をしてました」
それはわたしもわかる
時として世の利便性を究極に追求し向上させた商品は、まるでそれが世のすべてで哲学的でもあるかのような過剰評価を受けたりする
インスタント食品
ファストフード
コンビニの鳥のからあげまで
そうしてさらにおかしなことに、ある菓子メーカーの駄菓子を食のメルクマールのごとく賞賛する社会学者までいたりする
とにもかくにもシナリちゃんは今の世であればいい大人までが子供じみた味覚と食習慣でもって自制きかずに食べ続けているものを一切食べておらず、だから一度食べてみたかったのだという
そうして世間は狭い
「おー、シネリだよ」
シネリ?
「あーほんとだー、シネリだー。シネリのくせにハンバーガー屋に来ていいと思ってんのー?」
「てか水だけ飲んでんじゃないのー?」
「水なんかハンバーガー屋で出ないよー」
シネリの意味がわかった
死ねリ、らしい
「どーでもいいけど早く死ねよー」
「そうだよー。アンタ観てると腹立ってイラついてどうにもなんないんだよー。自殺でも他殺でもいいからさっさと死んで?」
どうやらシナリちゃんと同じ高校の生徒らしいその女子たちが言えぬこと無しでシナリちゃんをいたぶっていることにモヤが反撃しようとしたけれどもわたしはモヤを制した
「シャム、なんで止めるの?」
「モヤ。観て」
シナリちゃんの口元を観るようモヤに促す
驚いたよ、わたしもモヤも
「南無大師遍照金剛南無大師遍照金剛南無大師遍照金剛…」
ずっとお大師さまを念じていたんだよシナリちゃんは
モヤを制してわたしが高校生女子たちに告げた
「シナリちゃんは受け取っていない。今言った暴言と妄言はあなたたちのカラダに残って乳酸みたいにあなたたち自身の不調の原因になる」
「ないよ。そんなこと」
「むしろ死ねリの方がじゃねえの?社交性ゼロだし」
「じゃあ観せてあげようか」
別に特別なことをするわけじゃない
わたしは、脳波に沁みるような、その映像を同級生たちに捩じ込んだ
「えっ」
カップラーメンのチリチリした形状の麺が、転んで圧迫骨折したことが原因で寝たきりとなってけれども親族は全員自分の『自己実現』のためにかまけており誰も同居したり通いで介護をしてくれる人間はおらず、そのワーム状の麺が口だけでなく
鼻腔からはみ出ている自分の姿を
「う」
インスタント食品の成分が自らのカラダが許容する質量が飽和状態になって
皮膚に白い脂状のカスが垢のように浮かび上がっている姿を
「げえ」
カフェインと不自然な甘味料の絶妙な配合でナチュラルなドラッグ効果を慢性的に作り出す炭酸飲料水が、胃液と混じりあって
渋い味が食道を逆流してきてその効果で誤嚥性肺炎を起こして
けれども死ねなくて
全員がシモの世話をされながら、死ぬまで生きるという生活を
生活…
「生活って生きるための活動だから、あなたたちがやってる食事も、シナリちゃんを嘲っていることも、生きるための活動じゃなくて、死ぬための活動だよね…ううん、死ぬことすら叶わない世代だね、あなたたちって」
わたしは自問自答する意味も込めて告げた
「生ける屍って、自分で考えてモノを食べるんじゃなくて、みんながやってるからって映えやら『調理に凝ってみました』やらただ単に食材を切っているだけなのに接写で玄人っぽく雰囲気出して動画に上げたりとか…そういうことでしょう。ところで訊くけど、シナリちゃんは生ける屍?それともあなたたちが生ける屍?どっち?」
「シ、死ねリに学校で呼吸する瞬間もないぐらいいたぶってやる」
「やってみれば?やろうとした瞬間にまた今の映像を『捩じ込ん』であげるから」
「そんなことが」
「できるんだよ。現に今アナタが観てるのはじゃあなんなんだと思うの?」
・・・・・・・・
シナリちゃん初バーガーの感想は、
「化学的にはおいしい」」
だった。
「シャム。ところで今晩の宿はさ、カプセルホテルにしない?」
「?どうして?」
モヤが言ったよ
「3人並んだカプセルに頭を突っ込んで世の狭さを実感したくて」
そうかもね
大草原で眠るにも
川の字になって寝るかも