第56話 Disabled Band Female

文字数 626文字

 華麗な舞台なんて要らない

 観ない云わない聴かないの3人にわたしはロックの本当の意味を伝えるためのステージを用意してあげたよ

「カセンジキ、デスネ」
「そうだよ超乃(チョウノ)ちゃん。弾ける?」
「アツイデスケドダイジョウブデス」

 わたしも暑くてつい早く唇を動かしそうになるけど、読唇でコミュニケーションするチョウノちゃんのためにゆっくりゆっくり動かした。
 チョウノちゃんは読唇だけじゃなく読心でわたしの声を聴いてくれてるけどね。

 河川敷の、真夏近い夕方の芝生の上

「じゃあ」

 スタンドに乗せたエレクトリック・ピアノの重低音のパートを鍵盤の観えない視覚障碍ピアニストの観点(カンテン)さんが指を突き立ててガンガン鳴らす。

 ベースみたいに

 そのピアノのハンマーの重さにぴったりとバスドラを被せて云わない言語障碍ドラマーの言夢(ゲンム)がスネアをブラストする。

 チョウノちゃんは自ら鳴らすディストーション・ノイズを当然ながら聴覚ではなく皮膚で感じる

 あるいは頭髪で感じる

 うぶ毛で感じる

 そう、チョウノちゃんがピックを持った右手を、ぐわん、と宙空に突き上げた時、夕刻とはいえ真夏の日差しの逆光で映えた彼女の顎も上空に向けたそのシルエットがとても綺麗で、しかもほんとうにうぶ毛が煌めいていたんだよね。

 わたしは誰にぶつけるともなく、バンドのフロントに立ってさ、芝生の上5cmを急速に冷えながら飛んでくる川面からの風に後ろ髪をぶわっ、と翻してマイク無しでシャウトした。

「欠けたる我らにアンサンブルを!」
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