第243話 お日さまとお月さまの交わり

文字数 847文字

 さあさあさあ

 お月さまが欠けていくよ

 今はゲンムとわたしはふたりで屋根の上に登って体育すわりをしてるから同時通訳じゃなくてゲンムは手話でわたしに語りかけるよ

『月が綺麗だな』
「え!ゲンムわたしのこと好きなの!?」
『漱石先生はいいから』

 ゲンムのおかあさんがおだんごを作ってくれたよ

 うーん こういうひとをほんとの才女っていうんだよね

「ゲンムゲンム!みててみてて」

 あむ

「ほら!月蝕!」
『ベタなことを』

 わたしの前歯の形に欠けた齧られたおだんごを今ちょうど半分ほどまで欠けた月にかざしてみる

「うーん ゲンム 月蝕って誰がお月さまをかじってるんだろうね」
『ミコだろ』
「わー」
『なんだよ』
「ゲンムかわいー あっ!」

 おだんご一個転がした

 屋根瓦の段々を トンテントンテン て転がって行ってね

 ぱく

「うぇ!?」
『ああ 貂だな』
「いるんだ!」

 屋根の下のところに胴はそれなりの長さがあるけれどもどちらかというとむっくりした感じで茶色い毛の色のあいきょうあるテンがいた

『この間のダジャレクイズ絶対言うなよ』
「いわないよー 1匹しかいないのにー」
『10匹いたら言うのか』
「あーゲンムー 言ってほしいんだねー」
『いや 全然』

 ちょっと前までかいきげっしょくを怪奇月蝕ってばかりと思ってたからボイドとかいうあのおどろおどろしいお月さまを想像してたけれど皆既月食だってわかってだから少し安心したけど皆既ってどういうことなんだろうね

『ミコ お月さまにおられる神様はそうすると皆既日食をご覧になってるってことなのか』
「お月さまの神さま?」

 ゲンムってやっぱりすごいね

 ‘ほんとうのこと’がわかってるよ

『昔読んだ小説にな お月さまにおわす日の女神さまにお遭いしにいく旅をするってのがあったんだよ 取り違いだって思うか?』
「ううん 全然そんなこと思わない そのとおりだって思うよ」

 ふたりでいったん欠けてまた満ち始めるお月さまを観てたら下にさっきの貂がまたもどってきてね

 子供連れてた

『10匹まではいないな』
「ten 貂」
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