第256話 うらみなさるな

文字数 787文字

 今日は月参りの日

 お寺さんがお出でだよ

「ようよう あなたさまよ 久しいね」
「ご母堂さま ご機嫌麗しゅう」
「よいよよいよ あなたさまもお元気そうで おや お子が増えた?」
「はい ひとり増えました ミコちゃんです」

 ゲンムのお母さんはわたしのことをなんの説明もなく子がひとり増えたって

 喜し嬉し

「『ご母堂さまは今のご住職のお母さまなんだ 今日は師走でご住職が檀家さん廻りで大忙しだからご母堂さまが代わりにウチへお越しだ』あ そうなんだ ゲンムの手話いつもと違ってしとやかだ『やかましい』あ やっぱりゲンムのほんしょう」
「ほほ よいよよいよ ふたりともよいお子ぞいね」

 ご母堂さまは仏説阿弥陀経をお上げくださってわたしたちもその後ろに正座して一緒にお称えした

「さて 法話じゃが…きょうはよい折だからあなた様の話をしようかね」
「え…わたしのですか?」

 ゲンムのお母さんは ぽっ と耳まで赤くして

 けれどもご母堂さまの仰せのとおりみんなで聴いた

 ご母堂さまいわく

 あなたさま

 実家の親の看取りとて

 大事な家を開け放ち

 かわいやゲンムをひとりにし

 看護介護のお勤めを

 果たせしことぞ喜びぬ

 みっつのことを云うぞいね

 ひとつおつかれさまでした

 ふたつ両親うらむなよ

 みっつ天晴れよかったね

 よいよよいよで日を暮らそ

 ならぬかんにんいたしましょ

 なるかんにんはたれもする

 ならぬかんにんするのこそ

 まことのかんにんとみなさんよ

 ゲンムちゃんにミコちゃんよ

 こなたさまを観て取れよ

 看取りは当て字ぞ方便ぞ

 ほんのみとりは生きた内

 こなたさまを見本とせ

 よきこと手本と真似いたせ

 悪しことみせしめ真似するな

 親の生き様次の世に

 反省懺悔で弥栄ぞい

 さすればそなたら善し嬉しぞ

 よしよし背中をさすったれ

 嘆くひとこそさすったれ

 苦にあるひとこそさすったれ

 
「ご母堂さま ありがとうございました」
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