第22話 昔観たアニメってココロをくすぐったくするよね

文字数 1,690文字

 土砂降りの休日に路面電車でお出かけするのもアリだけど組み合わせも必要かな。

 ちょっとコーヒーも飲みたいし。

「お店のテーマソングが流れるのはまあしょうがないよね」

 スーパーマーケットのイートインでフリーのwi-fiにスマホを接続する。最初はスーパーのHPがたち上がってそれから動画サイトを立ち上げる。

「ええと・・・・・・あれって何世前だったかな・・・・」

 おっと。
 気にしないでね、わたしの側の事情の話だからね。

「あ・・・・これこれ」

 55円の缶コーヒーのプルタブを開けながらお目当てのアニメの第9話をタップした。わたしはカウンター席だけど、テーブル席の方には海外から労働ビザとか研修目的で実質的には働きに来たであろうアジア系の外国の女子男子たちがwi-fiを使って母国にいる家族の方たちと通話している。

「懐かしいな・・・・・」

 そのアニメの第9話を観た時のわたしの生活がどんなだったかを思い出すとほんとうに切なさが滲むよね。

 あれから何年経ったんだろう、って。
 その間にわたしはどうにかなったのかな、って。

 どうにか、っていうのはわたしのまあ自己実現的な?そういう願望が満たされたのかなどうなのかな、って意味でね。このアニメの主人公ふたりが高校生の男の子女の子だから余計に言い表しようのない涙腺と胸のくすぐったさ加減が連動したような気持ちになっちゃうよね。

「うう・・・・・・ダメだ。これはダメだよ」

 わたしが多分右目尻から一滴表面張力が破れていない涙をぷっくら作ったから外国の女子が話しかけてきてくれたよ。

「どうしたの?」
「ああ。ちょっとこのアニメにぐっと来ちゃって」
「ふうん・・・・・あ!これ!」
「ん?」
「これ、わたし自分の国で観てたよ!」

 あらまあ。
 でも偶然じゃないよねきっと。

「これ観て観て」

 彼女は自分のスマホの画像のアルバムを開いた。なんだろうなって思って観ると、まさしく今観ていた第9話の主人公の男の子と女の子が多分一級河川に架かった大橋の上で夕日の逆光でシルエットになったままで唇を触れ合う直前のイラストが描かれていた。ちなみに影同士が漸近するとそれこそ表面張力みたいにくっついてるのか膨張してくっついて見えるのか、って感じだから、キスしたのかしてないのかがこのアニメのフリークの間で話題になったっけな。

「日本には仕事で来たんだけど、でもホントは漫画家になりたい。この作品みたいな漫画を描いてアニメ化したい」
「日本で?」
「できればそうしたいけど無理ならばお金貯めて自分の国に戻った時にそれを資本にしてアニメ化したい」

 きっとそれって突拍子もない話じゃなくって、彼女の国ならばまだ可能な状況にあるんだろう。

 日本じゃほぼ無理に近いって状況に全員が追い込まれてるような気がするけど。

 わたしたちふたりは名乗りあった。彼女は、ネイン、って言った。

「シャムちゃん?わたしの絵、どうかな?」
「うーん・・・・・・・逆光でほんとに影だもんね・・・・・他の絵ってないの?」
「これとか」

 一転彼女が示してくれたのは人間では無かった。

「ネインちゃん。これって女神?」
「女性に見えるかもしれないけど、女でも男でもない。両性具有の神様。わたしの国では富の象徴」
「へえ・・・・・・」

 でもその神様はまつ毛がとても長くて、初見ならば女の子ですか?って言ってしまいそうな表情なんだけど、それってもしかしてネインちゃんの絵柄だってだけかもしれないね。

「シャムちゃん。描いてあげようか?」
「えっ」

 彼女はバッグからタブレットを取り出した。いつも絵を描くのに使っているという。絵ってアプリを使ってこんな風に描いてるんだ、って初めて生で観た。

「はいできた」

 彼女が画商みたいにしてタブレットの絵をわたしに掲げる。

「ネインちゃん」
「どう?シャムちゃん。気に入ってくれた?」
「顔がさ。さっきの神様とほとんど同じだよ?」
「わたしこの顔しか描けないの」

 あん?
 なんだそれ。

 でもまあかわいいからいいのかな。

 なにせずっと昔はキャラが女子男子問わずおんなじ顔で髪型だけで区別してた漫画もあったぐらいだからね。
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