第276話 ほんとうに捨てないってどういうことだろ

文字数 792文字

 哲学じゃだめなんだよ

 それって今までの偉いひとたち見てればわかるよ特にセンセイって呼ばれるひとたちの信念だとか哲学だとかいったものにろくなものなかったでしょう

 事実と実行と落ちることも潔しとしないと

 5歳のわたしにこんなこと言われて嫌かもしれないけど

 今日はお寺に来てる

 けれどもご住職は神事を司る

 元はひとつだから

「悪を切り捨てるのではいつまでたっても同じことです 切ったところで社会的地位や肉体を拘束したりはできても魂までどうにかすることはできませんよね?」
「ご坊さまはどうしてそういうことを知ったんですか?」
「神様にお聴きしたんですよ」

 ものすごくよくわかる

 ‘きく’という言葉を‘訊く’ではなく‘聴く’と表現していることも

 歌だから

 哲学や理屈じゃなく歌だから

「わたしの師匠が歌った歌を暗記して肚に入るほどに繰り返して読んでそうしてようやくほんとうに毛ほどだけですけれどもわかったんですよ わたしは師匠の歌を読むと同時に神さまのお示しをも肚に入れる作業をなしていたのだと」

 だから

「悪を抱き参らせるのです」

 わたしが5歳だからというだけじゃなくておそらくどんなに老成したひとでも悪を得心いくように抱き参らせることは至難のわざだろう

 人間ゴコロならば

「ところできょうはゲンムさんは?」
「ケンカしたのでわたしひとりで参りました」
「はははは」

 本来わたしとゲンムは我の強い者同士だから一緒の家に暮らし汚い言葉を吐きながらも仲良くしているのはこれは神さまのご縁としか思えない

 そうしてわたしとゲンムの関係は我を張ったお互いがその我を折ってココロを寄せ合い溶け合わせることがあって初めて成り立っている

 シャムのおかげで

 そしてね シャムのおかげっていうことはね

 神さま仏さまのおかげ

「ほら 来なされましたよ」

 ゲンムは御坊さまに会釈してから手話で話した

『厄介者を引き取りに参りました』
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み