第228話 落ちぶれた人をこそ捨てないんだ

文字数 844文字

 ひとの話を聴いて初めて気づくことがあるよ

 牙をむいて唸り声を上げているひとは

 とても辛い目に遭っているひと

「初見でこれまでのことをわからなくても大丈夫だよ」
「ミコ それもシャムの意向かい?」
「うん それもあるけどわたしもなんとなくわかるよ とことんまで落ちてるひと 落ち込んでるひと 嘆きに嘆いて わんわんて泣き伏してダンダンって地面を手のひらで叩いてるひととか 手に持っていた鞄を困苦の境遇のあまりやるせがなくて放り投げて道路に落ちたのを自己嫌悪に陥りながらまた拾ってそのまま歩いたりとか『ミコ 自己嫌悪なんて幼稚園児なのに知ってるんだな』そうだよ 悪い?『悪くはないけどちょっと怖いな』ゲンム 今の子供はみんなそうだよ 大人に気を遣ってわからないフリしてるだけで」

 よく考えてみてほしいんだよね

 ほんとうに世の中のひとを救っているのが誰かということを

 カリスマあるリーダー?

 ちがう

 偉大な政治家?

 ちがう

 ストイックなアスリート?

 おおよそちがう

 ノーベル賞でも獲る科学者?

 まったくちがう

 ほんとうに世を救っているのは

 譲るひとたち

 順番をゆずり

 勝ち負けをゆずり

 自分のメンツなどなにほどのこともなくゆずるひと

 そういうひとたちがどうなるかわかるよね?

 ある子はいじめに遭い

 あるひとは出世を閉ざされ

 あるひとは日の当たらない誰も見ていない場所で損な役回りに押し込められる

 でもよく考えてみて

 どちらが「ほんとうのこと」か

 逆さまの世の中ならば

 落ちに落ちてとことんまで落ちてそれでもまだ足りずに落ちて落ちて落ちて落ちて落ちぶれ果てて

 そうしたときが

 ほんとうのこと

 そうしたひとでないと

 ほんとうにひとを慈しむことは難しい

 なぜかというと

 自分と同じく落ちぶれたひとのことを

 匂いでわかるから

 その匂いにつられてさらにまた

 損な方へ損な方へ

 それは決して厳しい戒めじゃなくて

 楽へと広がって行く道

 落ちる事なく

 苦労なく

 得ることのできる程度の楽でなくて

 楽の極み

 極楽へと
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