第198話 悪魔を救う

文字数 1,219文字

 シャムの恩人の真髄は

 悪魔すらも「神さまの大切な氏子」と言い切るところ

「ゲンム モヤ わたし わかっちゃった」

 ミコがエロティックですらある特に腰のすぐしたのふくらみのない臀部から神様トンボの尻尾のようなか細くまっすぐな脚、そしてつま先に至るまでの距離はまっすぐに近い曲線とピンクの足指を反らせて、土踏まずと突然裸足になってコンクリとの隙間を覗きたくなるような

 そういう仕草と躯体とで語った

「テロリストの黒幕すら捨てないんだ」

 まだ言った

「カルトの教祖…狂祖すら捨てないんだ」

 そんなことが

 誰ができるっていうの?

「ホンモノの仏ならできる」

 ホンモノ

 対するニセモノ

 正邪?

 また違う

「ホンモノはホンモノだよ でね、いじめっ子も捨てない 毒親も捨てない 汚職の政治家も捨てない」

 そう言ってミコは自らゲンムの手話通訳を始めた

「『汚職の政治家も捨てないってそんなの誰も納得しないだろ』うんそう、誰一人として納得しない だからよ だからなのよゲンムモヤ 誰もが捨て去るものをも捨てない それがホンモノの仏 だから捨てること無しなの」

 シャムは

 じゃあ、ホンモノの…

「だからね 天に召す」

 うわ

 おぅ…

 あぁ…

「生殺与奪、ってこと?」
「少しちがうよ そんなありきたりのことじゃない ごく自然に逝ってもらうだけ」
「それが…」
「うん」
「済度なの?ミコ?」
「わからない わたしにはわからないけど そう聴こえる この国の何元号か前の首相もかつて天に召された それはこれ以上そのひとが治世をしようとすればするほど国が危機に陥るから いいひとだけど、でもほかのいいひとにもわるいひとにも害を及ぼすことになるから だからね、天に召す」

 シャムが言ってた そういえば

 シャムの恩人は命のやりとりさえしたって
 
 そんなことをだれができる

「ホンモノの仏ならばできるよ 鳥と相談して」
「鳥?」
「そう あと獣と相談して 虫と相談して 微生物と相談して 細菌と相談して 花と相談して 草と相談して 木々と相談して きのこと相談して 空気中に浮遊する微小な、それこそ息をするだけで吸い込んで殺してしまうような小さな小さな生き物たちと相談して」

 そうしてようやく

「天に召す」

 国において、臣でしかないものが

 虫や鳥獣や草木どころか、人間にすら相談せず意見を交わさず自分に都合のいい事情だけで決めたりはねつけたりする

 そういうひとですら捨てない

 捨てずに命を召し上げ、天に召す

「じゃあ、ミコ 汚職の政治家は天に召されて安穏に暮らしてるってこと?」
「ううん わからない」
「わからない、って…」
「ボーダーラインにいるひとだったら、閻魔大王さまに地獄行きを告げられてるかもしれない 仮にも臣のトップの職に就くひとだとしたらそんなことあってはならないことだけどね でも わからない わたしごときにはわからない」
「じゃあ誰ならわかるの?」
「シャムの恩人 まごうことなき、ホンモノの仏」
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