第158話 貞操という観念はもはやないのか

文字数 1,198文字

 別に誰もダメとは言ってない

 恋愛の形態に制限をかけるつもりもない

 ただ、嫌だな、って思うだけの話で

「タイシくんはシナリちゃんのどこが好きなの?」
「操を守ってるところ」

 はっ、と気付いた

 シナリちゃんのおばあちゃんが厳しいのはそういうことだ

「シナリも純情で真面目だけどタイシも同じだね」
「ううん、違うよモヤ」
「え」
「純情というよりは『ほんとうのこと』をやってるだけ」
「シャムさん」
「うん」
「わかっていただけますか?」

 ついさっきの瞬間までわたしでさえシナリちゃんはカチカチの固い子でだから周囲から浮いてしまっているんだろうって思ってた

 でも違ったよ

 娑婆だけじゃなく、閻魔様の御前まで含めた三千大千世界で浮いてるのはシナリちゃんを『死ねリ』と呼んでた子たちの方だよ

「僕はシナリちゃんのことがずっと好きです。ほんとうに操を守ってますから。学生の身の間は男のことは石ころだと思え、っていうシナリちゃんのおばあちゃんの言いつけをホンキで守ってるから」

 これにはシナリちゃんは照れて恥ずかしがって俯いてしまうかと思ったけれどもさにあらず

 堂々と自らタイシくんが言うところの論拠を述べてくれたよ

「たとえばタイシくんが結婚して子供を作る相手以外の女のひととそういうことをしたとします。タイシくんの性器は相手の女の人の性器の中に入るわけです。そうしてその後で結婚して子供を作ろうとした時に、その子の母親となる以外の人の性器と分泌物が浸透した性器で子供を授かるための行為をする。耐えられますか?そんなことがタイシくんに?」

 す・ご・い…

「そして仮にわたしが結婚して子供を作る相手以外の男のひととそういうことをしたとして、そうするとわたしが通常分娩ならばその子の父親以外の性器が通過したトンネルを通じてその子は娑婆に出てくるわけです。まずわたし自身が耐えられませんし、その子も耐え難いことだろうと思います」

 す・ご・い…

「もちろん色んな事情のひとが娑婆に大勢おられます。現にわたしの母親は父が他界したあとに今の父親と再婚した訳です。どうにもならない事情というのは当然ありますけれども、もしも単純に惚れた腫れただけで男女の都合でそういうことを軽々しくやってしまうことは、様々な事情を抱える人たちをも傷つける行為だろうと思うんです」

 す・ご・い…

 何がすごいかっていうと『こういうこと』を精神論やココロの問題として否定するんじゃなくって、生理的に否定しているところがまこと本質を言ってる

 本音を言ってる

「じゃあ、僕と結婚してくれるよね、シナリちゃん」
「だからそれはまだ先の話」
「僕は安心感がほしいんだ。もしシナリちゃんが僕と結婚してくれるってわかったら、あらゆることにモンモンとすることなく僕は世を救うための努力に邁進できるよ」

 タイシくんもすごい

 でもモヤが言った

「ごめん。恥ずかしいからあっちでやって、ふたりとも」


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