第96話 一本杉の形は真っ直ぐか曲がってるか
文字数 1,282文字
「うわあ」
不謹慎かな。
でも圧倒される。
「シャム。この長命杉はねえ、弘法大師さまお手植えの杉で樹齢は1200年だよ」
有史の半分以上か
もしも永遠に近い概念があるとしたらこういう存在なのかな
「ウチの家紋が一本杉なんだ」
「へえ。モヤの苗字って?」
「野暮なこと訊かないで」
メーターの横の写真入りの名刺にはなぜか『モヤ』としか書いてなくて。
まあ、わたしの苗字もあって無いようなもんだからね。
「あ、それでなんだね。モヤの名刺に一本杉のロゴが入ってるの」
「ぷ。ロゴはないでしょ、シャム。家紋って言いなよ」
「かわいいね、その一本杉」
「そうだね。昔のひとはあれだね。アイコンのセンスあるよね」
そっか。
ほんとだよね。
デザインのセンスがすごいよね今にして思うと。
ほんとに丁度丸い枠組みに収まるような丸っこくて黒と白のスペースのバランスが絶妙で。
「でね、シャム。わがルーツであるこの一本杉の家紋はさ、ご神木の象徴でもある。ちょうどこの長命杉みたいにね」
「わかる」
「ところがねえ、ウチが先祖代々所有するその小さな山にあるご神木はねえ、曲がってるんだ」
「直線じゃないの?」
「ものすごい急斜面に植わってるんだ。だから斜面から一旦横に伸びた後で、ぎゅいーってカーブしてそれから天空へ向かって真っ直ぐさ」
「力を感じる」
「ありがとう」
これが女子トークとしてアリかどうかと言えばアリなんだろう。同じ白装束を着た年配のお遍路さんの集団に取り囲まれた。
「お若いですねえ。それに今のお話、実に興味深い」
男女3人のお遍路さんと、やっぱり年配の男性先達ドライバーの4人だった。あ、先達ドライバーっていうのはね、自らもお遍路さんとしての作法を身につけていて弘法大師さまを深く敬い、お遍路さんの修行を手助けする四国のタクシードライバーのことで、モヤも若くて経験が短いながらも見事に先達ドライバーとしての勤めを果たしてるのだそうだ。
「わたくしの曽祖母が教えてくれました」
「ほう。どんな神さまがそのご神木には?」
「高神さまだと曽祖母は申しておりました」
わたしはモヤが高神さまの話をすることには驚かないし、モヤのひいおばあさまがモヤに語って聞かせたことにも別に驚かない。
高神さまは事実おわして、山をお護りになり、人間の長久をお護りくださるのが本当の意味での現実世界なのだから。
そうではなくてわたしが驚いたのはモヤが礼節の限りをお遍路さんたちに尽くしていることだ。
「シャム。一番の札所の霊山寺で誓いを立てた通りに振る舞って。お遍路さんは真剣に『何か』を求めて四国へとやって来ておられる。ある方は長年にわたり仕事を通じて世に奉仕して来られたその足跡を振り返るために。ある方はご自身の病気と向き合うために。ある方は亡くなった方の魂を慰撫するために。だからお遍路さんはこの四国で尊敬を受ける。シャム、こんな言葉を知ってる?」
人の敬によって神は威を増し
人は神の徳によって運を添う
「だからシャム。尊敬に足るようにこの四国で参拝して、そうして何かを持ち帰ってね」
長命杉と触れ合った二番の札所、極楽寺。
不謹慎かな。
でも圧倒される。
「シャム。この長命杉はねえ、弘法大師さまお手植えの杉で樹齢は1200年だよ」
有史の半分以上か
もしも永遠に近い概念があるとしたらこういう存在なのかな
「ウチの家紋が一本杉なんだ」
「へえ。モヤの苗字って?」
「野暮なこと訊かないで」
メーターの横の写真入りの名刺にはなぜか『モヤ』としか書いてなくて。
まあ、わたしの苗字もあって無いようなもんだからね。
「あ、それでなんだね。モヤの名刺に一本杉のロゴが入ってるの」
「ぷ。ロゴはないでしょ、シャム。家紋って言いなよ」
「かわいいね、その一本杉」
「そうだね。昔のひとはあれだね。アイコンのセンスあるよね」
そっか。
ほんとだよね。
デザインのセンスがすごいよね今にして思うと。
ほんとに丁度丸い枠組みに収まるような丸っこくて黒と白のスペースのバランスが絶妙で。
「でね、シャム。わがルーツであるこの一本杉の家紋はさ、ご神木の象徴でもある。ちょうどこの長命杉みたいにね」
「わかる」
「ところがねえ、ウチが先祖代々所有するその小さな山にあるご神木はねえ、曲がってるんだ」
「直線じゃないの?」
「ものすごい急斜面に植わってるんだ。だから斜面から一旦横に伸びた後で、ぎゅいーってカーブしてそれから天空へ向かって真っ直ぐさ」
「力を感じる」
「ありがとう」
これが女子トークとしてアリかどうかと言えばアリなんだろう。同じ白装束を着た年配のお遍路さんの集団に取り囲まれた。
「お若いですねえ。それに今のお話、実に興味深い」
男女3人のお遍路さんと、やっぱり年配の男性先達ドライバーの4人だった。あ、先達ドライバーっていうのはね、自らもお遍路さんとしての作法を身につけていて弘法大師さまを深く敬い、お遍路さんの修行を手助けする四国のタクシードライバーのことで、モヤも若くて経験が短いながらも見事に先達ドライバーとしての勤めを果たしてるのだそうだ。
「わたくしの曽祖母が教えてくれました」
「ほう。どんな神さまがそのご神木には?」
「高神さまだと曽祖母は申しておりました」
わたしはモヤが高神さまの話をすることには驚かないし、モヤのひいおばあさまがモヤに語って聞かせたことにも別に驚かない。
高神さまは事実おわして、山をお護りになり、人間の長久をお護りくださるのが本当の意味での現実世界なのだから。
そうではなくてわたしが驚いたのはモヤが礼節の限りをお遍路さんたちに尽くしていることだ。
「シャム。一番の札所の霊山寺で誓いを立てた通りに振る舞って。お遍路さんは真剣に『何か』を求めて四国へとやって来ておられる。ある方は長年にわたり仕事を通じて世に奉仕して来られたその足跡を振り返るために。ある方はご自身の病気と向き合うために。ある方は亡くなった方の魂を慰撫するために。だからお遍路さんはこの四国で尊敬を受ける。シャム、こんな言葉を知ってる?」
人の敬によって神は威を増し
人は神の徳によって運を添う
「だからシャム。尊敬に足るようにこの四国で参拝して、そうして何かを持ち帰ってね」
長命杉と触れ合った二番の札所、極楽寺。