第62話 アナザー・オリンピック
文字数 1,668文字
「捨無 ちゃん。『裏オリンピック』と『闇オリンピック』とどっちがいいと思う?」
「はい?」
大家さんのことはある意味尊敬してるけどこういうセンスは皆無だって分かった。どっちもあり得ないと思った。だからこう提案した。
「『アナザー・オリンピック』」
開催場所は駅前の全国チェーンのカフェ。
本物のオリンピック開会の翌日正午にこちらはいきなり決勝を迎えた。
急遽設置された大会組織委員会の、わたしは委員長になった。
といっても委員会はわたしひとり。
大家さんとわたしが会場に到着すると選手は既にテーブルに着席していた。
第一レーン 男子選手
「Aです。小学校4年生です」
第二レーン 女子選手
「Bです。小学校5年生です」
第三レーン 性別無し選手
「Cです。小学校6年生です」
「おっと・・・・・・・・4人以上はダメだからテーブルもうひとつ頼むよ」
組織委員長のわたしは隣のテーブルに大家さんとわたしの分の甘いラテを移した。選手三人は自分の座席の前に飲み物と・・・・・・・ノートを一冊ずつ置いてる。
「さて、選手諸君、『閻魔帳』は正直に書いてきたろうね」
「「「はい」」」
「では組織委員長。審判長の兼務を命ずる」
「はい?」
大家さんが無理難題を言ってきた。
「お、大家さん・・・・・・・この『閻魔帳』って、言ってみれば告白文書ですよね」
「そうだね。その通りだね」
「それを、わたしに判断しろと?」
「シャムちゃん。あんたじゃなきゃできないよ。こんなセンシティブでしかも人生をかけてこの選手たちがやってきたことに点数をつけることは、シャムちゃんみたいな子じゃなきゃできないよ」
有無を言わさずに競技が始まった。
「では、読ませていただきます」
A
「延髄を斬られた・・・・・えっ?延髄?斬る!?」
「委員長・・・・いえ、審判長。プロレスの技にそういうのがあるんです」
実は、知ってたけどね・・・・敬意を込めてオーバーアクション気味に驚いてあげたんだ。
B
「一日に500回『キモい』と言われ新記録達成。一日に750回『死ね』と言われてこちらも新記録達成」
「審判長。『死ね』は二文字で短いですから回数を重ねやすいんですよ」
C
「性器を、確認のために、スカートを下げてタイツを脱がされて、晒された」
「審判長。わたしが
審判長にしてヒラ審判員でもあるわたし一人で金銀銅を決めないといけない。
この三人の選手生命がかかっている。
そしたらね、何やってんだ、っていう感じで周囲のテーブルの客たちがちらちらとこっちの様子を気にかけてた。主催者である大家さんが一喝した。
「見るな。覗くな。晒すな。無観客試合なんだからあっち行きな」
外野がいなくなったお陰でわたしは審査に専念できた。
悩みに悩み、迷いに迷った。
このABC三選手が繰り出してきたいじめの実態は、どれもが努力と呼んでよいものだとわたしは思う。世間一般的には努力とも認められず、反対に社会に適合できない負け犬として認識されることすらあるけれども、この耐え難きを耐え忍び難きを忍ぶ姿は、かつて敗戦した国が、全世界からの誹謗中傷にもならぬかんにんをし、忍耐とそして努力とで復興を成し遂げてきたその姿にも通じると思う。この三選手をいじめてきた人間たちこそが努力不足の人間たちだと思う。
でも、順位をつけないといけない。
ただ、この順位は究極の機微情報だよね。
だから、公表はしないことにして結果は本人たちひとりひとりにだけわたしからそっと伝えることにした。
金の選手は自分のいじめのひどさを嘆いて泣き。
銀の選手は中間の『月並み』と言われたように感じて泣き。
銅の選手は自分の忍耐は結局評価されないのかと泣いた。
「さて、メダルを授与するよ」
主催者である大家さんが、500円硬貨ぐらいの大きさのメダルを三枚出した。
けれども、どれも光っていない。
それどころか異様な色合いをしていて、しかも三枚とも同じモノのように見える。
「金銀銅の合金さ」
「えっ」
「だって、どうでもいいからね、色なんぞ」
「はい?」
大家さんのことはある意味尊敬してるけどこういうセンスは皆無だって分かった。どっちもあり得ないと思った。だからこう提案した。
「『アナザー・オリンピック』」
開催場所は駅前の全国チェーンのカフェ。
本物のオリンピック開会の翌日正午にこちらはいきなり決勝を迎えた。
急遽設置された大会組織委員会の、わたしは委員長になった。
といっても委員会はわたしひとり。
大家さんとわたしが会場に到着すると選手は既にテーブルに着席していた。
第一レーン 男子選手
「Aです。小学校4年生です」
第二レーン 女子選手
「Bです。小学校5年生です」
第三レーン 性別無し選手
「Cです。小学校6年生です」
「おっと・・・・・・・・4人以上はダメだからテーブルもうひとつ頼むよ」
組織委員長のわたしは隣のテーブルに大家さんとわたしの分の甘いラテを移した。選手三人は自分の座席の前に飲み物と・・・・・・・ノートを一冊ずつ置いてる。
「さて、選手諸君、『閻魔帳』は正直に書いてきたろうね」
「「「はい」」」
「では組織委員長。審判長の兼務を命ずる」
「はい?」
大家さんが無理難題を言ってきた。
「お、大家さん・・・・・・・この『閻魔帳』って、言ってみれば告白文書ですよね」
「そうだね。その通りだね」
「それを、わたしに判断しろと?」
「シャムちゃん。あんたじゃなきゃできないよ。こんなセンシティブでしかも人生をかけてこの選手たちがやってきたことに点数をつけることは、シャムちゃんみたいな子じゃなきゃできないよ」
有無を言わさずに競技が始まった。
「では、読ませていただきます」
A
「延髄を斬られた・・・・・えっ?延髄?斬る!?」
「委員長・・・・いえ、審判長。プロレスの技にそういうのがあるんです」
実は、知ってたけどね・・・・敬意を込めてオーバーアクション気味に驚いてあげたんだ。
B
「一日に500回『キモい』と言われ新記録達成。一日に750回『死ね』と言われてこちらも新記録達成」
「審判長。『死ね』は二文字で短いですから回数を重ねやすいんですよ」
C
「性器を、確認のために、スカートを下げてタイツを脱がされて、晒された」
「審判長。わたしが
どちらだったか
はどうぞ訊かないでください」審判長にしてヒラ審判員でもあるわたし一人で金銀銅を決めないといけない。
この三人の選手生命がかかっている。
そしたらね、何やってんだ、っていう感じで周囲のテーブルの客たちがちらちらとこっちの様子を気にかけてた。主催者である大家さんが一喝した。
「見るな。覗くな。晒すな。無観客試合なんだからあっち行きな」
外野がいなくなったお陰でわたしは審査に専念できた。
悩みに悩み、迷いに迷った。
このABC三選手が繰り出してきたいじめの実態は、どれもが努力と呼んでよいものだとわたしは思う。世間一般的には努力とも認められず、反対に社会に適合できない負け犬として認識されることすらあるけれども、この耐え難きを耐え忍び難きを忍ぶ姿は、かつて敗戦した国が、全世界からの誹謗中傷にもならぬかんにんをし、忍耐とそして努力とで復興を成し遂げてきたその姿にも通じると思う。この三選手をいじめてきた人間たちこそが努力不足の人間たちだと思う。
でも、順位をつけないといけない。
ただ、この順位は究極の機微情報だよね。
だから、公表はしないことにして結果は本人たちひとりひとりにだけわたしからそっと伝えることにした。
金の選手は自分のいじめのひどさを嘆いて泣き。
銀の選手は中間の『月並み』と言われたように感じて泣き。
銅の選手は自分の忍耐は結局評価されないのかと泣いた。
「さて、メダルを授与するよ」
主催者である大家さんが、500円硬貨ぐらいの大きさのメダルを三枚出した。
けれども、どれも光っていない。
それどころか異様な色合いをしていて、しかも三枚とも同じモノのように見える。
「金銀銅の合金さ」
「えっ」
「だって、どうでもいいからね、色なんぞ」