第200話 ひやうふつとすくいつくす

文字数 989文字

 ひやうふつ

 天才だと思う

 第八十四番札所 南面山 千光院 矢島寺

 あまりにも有名な那須与一が矢で射る音

 その後の展開も鳥肌が立つほどにクールで凄まじい

 人の死なのに

 いや、人の死だからこそかもしれないね

 わたしは5歳で未就学児だからこういうものを本来まだ知らないはずなんだけれどもシャムの小説とその創作のためのすべての記憶を『捩じ込まれた』から

 創作のためのすべての記憶っていうのはね

 全部だよ

 生きて死んだことのすべてだよ

 だからね 書くためにわざわざその段になって取材を始めてテーマを決めてプロットを組んで構成を決めてエピソードネタをつぎ込んであまつさえ『お手本とする小説から学んだ文体・語彙』で書く

 5歳にしてわたしが言うのは憚られるかもしれないけどほんとうのことだと思うから言うね

 甘っちょろい

 吾輩は猫である。名前はまだない。

 これもあまりにも有名な日本を代表する小説のイントロだけれどもこの二文を指してエレファントカシマシの宮本浩次は

’すげえよねえ ぶっ飛んでるよねえ‘

というような最大級の賛辞を送ったらしいよね

 それからまだあるよ

 ベートーベンの交響曲第一番

 ジャジャジャジャーン

 おそらくは古代打楽器やあるいはクラップハンドによる原始の神へ捧げる儀式に始まって作曲ソフトによって世の10代以下全員が『アーティスト』になりうる今の世すべてを通じても際立って’凸‘となっているそのフレーズ

 だからだよ

 だから甘っちょろいんだよ

 ううん シャム自身が自分の小説にダメ出ししてたんだよ

 まだだ まだだ まだ行けるのに、って

 だからね わたしはシャムにこう言ってあげたいの

 あなたの恩人すら『愚かなわたしが筆を染め造りし歌であるけれど』って歌った

 ならば再生回数なるものが十五億回とかいってリスペクトされてる世ってなんなの?

 ホンモノの仏すら『愚かなわたし』と言ってまで目の曇り少なきひとたちに『ほんとうのこと』を知ってほしいとすべてのフィルターを取り払って書いたその歌が

 シャムが居なかったら消え去ろうとしていた

 そんなことわたしは耐えられない

 許されない

 義務と言ってしまったらひとによっては忌避感をもたれてしまうからね

 言わずにはいられない、って言うよ

 告げずにはいられない

 まだ女とすら認識されないこの5歳のわたしにして

 ほんとうのことを書かずにはいられないのに
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