第157話 ファイティング・ウィメン
文字数 1,605文字
闘う女
かっこいいでしょ
わたしは実は弘法大師さまは闘う人間だったんだろうって思ってるよ
だってそういうファイティング・マンだからこそ虚空蔵求聞持法っていう狂おしいぐらいに熱い修行をなさったわけだからさ
そういうゴツゴツの火鉢の中の燃え盛る炭みたいな熱いココロをお持ちだったからこそ難破寸前の遣唐船の甲板で不動明王の真言を怒鳴るように唱え上げて嵐を折伏してさ
今の世のインフルエンサーみたいに崇め奉られようなんて微塵もお思いでなかった
だって、弘法するんだから
法を弘めるのにふんぞりかえったりなんか決してしない
まるで自らがフォロワーのように民衆の中に飛び込んで行ってさ
井戸を掘り
橋を架け
感染すら厭わず病人の疱瘡を撫でさすり
知識は知識にあらず、とことんまでのそれは慈悲の結果であって
けしてけして今の世の科学者たちが弘法大師さまを自分サイドに置くために科学者呼ばわりするそういう薄っぺらなものじゃない
だから心配なんだよ
シナリちゃんが
「シナリって、ホンモノのホンキの中二病なんだね」
「すみません…」
「なんであやまるの?わたしはアナタを弘法大師さまと同じホンキで世を救おうと身を弾丸のようにして神仏の世界に命を賭けたその志と同じと思うんだよ」
「でもだからさっきの子たちにやられてるんだね」
冗談が通じない
適当という言葉を感知しない
加減を知らない
「だから『捨てないんだ』よね」
「はい…そうなんだろうと思います」
「辛い?」
モヤはとことんシナリちゃんに惚れ込んだようだ
それはモヤの境遇からも推して知るべし
ふたりがもしも同じ高校に通っていたならばこのうえない同士になれただろう
それか、このうえないライバルか
シナリちゃんはだからモヤに弱音を吐いた
「辛くないわけがないです」
「そうだよね…」
「でも楽しいんです」
「?」
「弘法が」
「理解者はいる?」
「祖母が」
「高校には?」
「います」
「誰?」
「いじめに遭ってる子全員です」
そうだ
そうだ
たいへん、そうだ
まさしく、そうだ
コンビニでソフトクリームを買ってきて、わたしたちは横三列に並んで取ったカプセルに腰掛けて、路面電車の音を聴きながら夜風でソフトを溶かした
明日の朝が早いとはいえ
さっきの子たちとのやりとりから逃げたくて早い時間にチェックインしたから眠るにはまだ早い
それに
「ねえ、シナリ。弘法大師さまのイラストを描いたのがシナリで、レジンにしてくれたのが彼氏だって言ってたよね」
「彼氏ではないのです」
「ぷ。でも男なわけでしょ?遭いたいなぁ」
「えーと。ダメです」
「えー。なんでー?」
「惚れた腫れたは学生の内はダメだって祖母からきつく言われてます」
「でも友達なんでしょ?」
「はい、でも学校の外で遭うのはダメなんです」
「んん?」
「その…彼はわたしのことが大好きだからです」
「…それって、Love、ってこと」
「はい、おそらく」
「じゃあなおさら遭いたいなぁ」
「ダメです」
モヤは願いを叶えた
「えーと。タイシって言います。大きな志、で大志です」
「「おー」」
道後温泉前にそのタイシくんを呼び出して、とりあえずお風呂にはいることにしたよ
いやもちろん男湯と女湯に分かれてね
女湯でモヤがシナリちゃんを尋問する
「もう運命でしょ」
「え…」
「だって、『大きな志が成る』でタイシとシナリじゃん」
「は…い…」
「で、タイシは背は低いけど、キュッとした感じでお尻もぴょこ、って上向きで」
「あぁ…そ、ですね…」
「かわいいじゃない」
上がって風呂の入り口でタイシくんと落ち合う
なんとなく、だけどわたしから訊いてみた
「タイシくんの『大きな志』ってなに?」
「言っていいですか」
「どうぞ」
「シナリちゃんと結婚することです」
おぉ
「カッコいーよ!」
モヤがそう声を上げると、シナリちゃんはもうまったくいたたまれない人間のようにして身の置き場がないような仕草で真っ直ぐに立ってたよ
かっこいいでしょ
わたしは実は弘法大師さまは闘う人間だったんだろうって思ってるよ
だってそういうファイティング・マンだからこそ虚空蔵求聞持法っていう狂おしいぐらいに熱い修行をなさったわけだからさ
そういうゴツゴツの火鉢の中の燃え盛る炭みたいな熱いココロをお持ちだったからこそ難破寸前の遣唐船の甲板で不動明王の真言を怒鳴るように唱え上げて嵐を折伏してさ
今の世のインフルエンサーみたいに崇め奉られようなんて微塵もお思いでなかった
だって、弘法するんだから
法を弘めるのにふんぞりかえったりなんか決してしない
まるで自らがフォロワーのように民衆の中に飛び込んで行ってさ
井戸を掘り
橋を架け
感染すら厭わず病人の疱瘡を撫でさすり
知識は知識にあらず、とことんまでのそれは慈悲の結果であって
けしてけして今の世の科学者たちが弘法大師さまを自分サイドに置くために科学者呼ばわりするそういう薄っぺらなものじゃない
だから心配なんだよ
シナリちゃんが
「シナリって、ホンモノのホンキの中二病なんだね」
「すみません…」
「なんであやまるの?わたしはアナタを弘法大師さまと同じホンキで世を救おうと身を弾丸のようにして神仏の世界に命を賭けたその志と同じと思うんだよ」
「でもだからさっきの子たちにやられてるんだね」
冗談が通じない
適当という言葉を感知しない
加減を知らない
「だから『捨てないんだ』よね」
「はい…そうなんだろうと思います」
「辛い?」
モヤはとことんシナリちゃんに惚れ込んだようだ
それはモヤの境遇からも推して知るべし
ふたりがもしも同じ高校に通っていたならばこのうえない同士になれただろう
それか、このうえないライバルか
シナリちゃんはだからモヤに弱音を吐いた
「辛くないわけがないです」
「そうだよね…」
「でも楽しいんです」
「?」
「弘法が」
「理解者はいる?」
「祖母が」
「高校には?」
「います」
「誰?」
「いじめに遭ってる子全員です」
そうだ
そうだ
たいへん、そうだ
まさしく、そうだ
コンビニでソフトクリームを買ってきて、わたしたちは横三列に並んで取ったカプセルに腰掛けて、路面電車の音を聴きながら夜風でソフトを溶かした
明日の朝が早いとはいえ
さっきの子たちとのやりとりから逃げたくて早い時間にチェックインしたから眠るにはまだ早い
それに
「ねえ、シナリ。弘法大師さまのイラストを描いたのがシナリで、レジンにしてくれたのが彼氏だって言ってたよね」
「彼氏ではないのです」
「ぷ。でも男なわけでしょ?遭いたいなぁ」
「えーと。ダメです」
「えー。なんでー?」
「惚れた腫れたは学生の内はダメだって祖母からきつく言われてます」
「でも友達なんでしょ?」
「はい、でも学校の外で遭うのはダメなんです」
「んん?」
「その…彼はわたしのことが大好きだからです」
「…それって、Love、ってこと」
「はい、おそらく」
「じゃあなおさら遭いたいなぁ」
「ダメです」
モヤは願いを叶えた
「えーと。タイシって言います。大きな志、で大志です」
「「おー」」
道後温泉前にそのタイシくんを呼び出して、とりあえずお風呂にはいることにしたよ
いやもちろん男湯と女湯に分かれてね
女湯でモヤがシナリちゃんを尋問する
「もう運命でしょ」
「え…」
「だって、『大きな志が成る』でタイシとシナリじゃん」
「は…い…」
「で、タイシは背は低いけど、キュッとした感じでお尻もぴょこ、って上向きで」
「あぁ…そ、ですね…」
「かわいいじゃない」
上がって風呂の入り口でタイシくんと落ち合う
なんとなく、だけどわたしから訊いてみた
「タイシくんの『大きな志』ってなに?」
「言っていいですか」
「どうぞ」
「シナリちゃんと結婚することです」
おぉ
「カッコいーよ!」
モヤがそう声を上げると、シナリちゃんはもうまったくいたたまれない人間のようにして身の置き場がないような仕草で真っ直ぐに立ってたよ