第120話 彼女とわたしを供養しよう

文字数 1,934文字

 さあおもしろい話をしようか

 わたしが前世以前のすべての過去世の記憶が全部残っていることをモヤにはもはや遠慮する必要がないからその『事実』を躊躇も装飾もなくホンキで伝えたわけだけれども

 もうひとつ

「モヤ。まだモヤモヤしてるでしょう。あ、これは別に洒落でもなんでもなくて…」
「いいよ。そういうからかいには慣れてるから」
「ごめんね。でもおもしろい話だから。ジコクヨウの話」
「え。『自国用』ってなに?難しい話?」
「ごめんごめん。『自己供養』の話。セルフ供養?」
「セルフGSじゃないんだから…」

 でもモヤは高知の寺々を巡り始める前夜の民宿でわたしと並べた布団から夜目が効き始めて木目がクリアに観えるようになった天井を、数十センチだけズレたアングルから見上げてる中で、ものすごい興味を持った息遣いでわたしの話の始まりを待っているみたい。

 ふと観える範囲でモヤの布団の足元を覗くとね

 まあ、夜目にも白い脚の爪先の指がかわいらしく、ぴん、って反ってた
 背が高いからはみ出てるんだよね

 では始めようかな

「モヤ。わたしは自分自身の過去世の記憶を全部覚えてるから自分で自分を憐れんだり蔑んだり賞賛したりするわけなんだよね」
「へえ…おもしろそう」
「でしょう?だからね、お彼岸とかお盆になるとね、自部屋の座卓にお茶とかお酒とかをお供えしてね、そうしてお気に入りの花屋さんで買ってきた花をね、一輪挿しの花瓶に挿して愛でるのさ」
「あれ?」
「ん?」
「あれれれれ?」
「なに…」
「『愛でるのさ』の『さ』がすごくかわいかった」
「それはどうも」
「で?シャム、早く続き言って?」
「うん。まあ自分がかわいらしいって思って自分で生けた花だから『かわいいよね』って愛でるわけ。ぼうっ、としてね」
「へえ…何分ぐらい?」
「(さすがモヤ)そうね。長い時は30分とか」
「なるほど」
「そうするとね、花が動いてるのがわかるんだ」
「重みで?」
「それもあると思うけど、多分わたしが観て一番いい風に観えるようにアングルを変えてくれてるんだと思う。微妙に」
「花が?」
「うん花が。どこかおかしい?」
「ううん。すごい真面目」
「ありがとう。でね、その花を愛でてるうちにね、自分のココロもなんかこうモヤモヤしてくるんだよね」
「えっ、それってヤな感情?過去の辛いことを思い出したりとかして」
「ううん。わたしにとってのモヤモヤは『うまく言い表せないけれどなにかせずにはいられない不思議な気持ち』っていう類のこと。だからモヤの『モヤ』って名前、大好き」
「それはどうも」
「淡白」
「さっきのお返し」
「ふふ。でね、わたしが花をぼうっと観てたい気持ちがね、ああ、自分で自分自身を供養してるんだな、って思うの」
「今の『思うの』の『の』もかわいかった」
「うわ!ありがとう!」
「ちょちょ、さっきと反応真逆」
「モヤへの牽制」
「はやく続きを」

 急かされるとなんだか女ふたりでエッチな話でもしてる気分になるけど、そんなわけではないからわたしは自分自身も楽しみながら続ける。あ、もちろん仮にエッチなことだったとしても、当然自分自身が楽しんでその語り合いやら行為やらをすることは重要かなって思うけど。
 そしてこれは伏線ね。

「まあつまりわたしはわたしの過去世を『ご先祖様』みたいな感じにして供養してるわけなんだよね、モヤちゃんよ」
「シャ、シャム!」
「わ!?なに?急に大声で」
「まさか誰か降臨してるわけじゃないよね!?」
「大丈夫、今喋ってるのは『現世の』わたしだから」
「う、うん…どうぞ続けて?」
「…まあつまり『情けは人のためならず』自分のためだっていうけど、あれですら浅すぎる言い方なんだよねわたしみたいな体験をしちゃうと」
「急に話が難しくなったね。わかるように教えて?」
「今、わたしが生きてるこの現世にも、わたしがいる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そっか」
「わかってくれた?」
「うん。すごくわかる」

 さあそしてここからはわたしがずっと以前の世で書いたわたし自身の文章の伏線回収。

「たとえばいじめをしたとして。もしかしたらいじめてる相手がわたし自身かもしれない」
「それやだね」

 おしまい

 え。消化不良?

 ならばサービスで

「モヤ。だからね」
「うん」
「わたしがモヤをこういうこと全部話したいほど好きなのはわたし自身を好きになることとおんなじなんだよ」
「うん」
「ねえ、ほんとにわかってる?」
「うん。わかってる。わかってるから」

 ふとんの、枕が同じ高さにあるから背の高いモヤの側からでもほとんどわたしと同じ高さぐらいのところからあたたまった指が掛け布団の下から差し込まれてきたよ。

「シャム。手、繋いで眠っても、いい?」
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