第44話 楽しきことを探そうか

文字数 1,097文字

 深夜のわたしの単独行動。

 自由だ自由だ。

 ピポピポン

 コンビニの自動ドアを半身ですり抜けてそのままお手洗いまで進んで、深夜だから誰に気兼ねすることもなく用を足させていただいて、それからやっぱり気兼ねすることなく洗面所でゆっくりとシャボネットを泡立てて手を洗ってペーパータオルで水分を完全に吸い取って。

 タダ乗り無しだという一応わたしのルールに則って、一口サイズのチョコを一個だけ買った。

「41円です」

 中途半端な値段のそれをコンビニからの出がけにぽいっと口腔の下のやわらかなピンクの肉の上に乗っけて咀嚼したよ。

「チョコ中毒かも」

 そんなわけないんだけど一応真夜中の街の雰囲気に合わせてちょっとクレイジーさを感じようとしてたら深夜残業の帰り道でこれから家で晩酌でもしようってビールとサワーの缶を買ったサラリーマンのお兄さんがわたしの少し後ろで警察官ふたりに呼び止められてる。

 職務質問かなって思ったけどそのお兄さんはちょっと耳をそば立てたくなるようなことを警察官から言われた。

「すみません。所持品をお見せいただいてもよろしいですか?」

 ふたりのうちの背もお腹周りも大きい方の警察官が白い手袋を装着して、そうして訳もわからずに黒っぽいビジネスバッグのファスナーを開けざるを得なかったお兄さんは不安そうな顔で警察官の手元と自分のバッグの中を見つめる。

「ありがとうございます」

 どうやら何も検出されなかったようだ。そこで初めて警察官は所持品検査の理由を告げた。

「実は今、刃物を持って歩いているスーツ姿の男性がいたという通報があったんですよ」
「あ、そうなんですか」
「どうぞお気をつけてお帰りください」

 ふむう。

 刃物男かぁ。

 いいねぇ。

 っていうか、本当に気分が落ちこんで、大橋から飛び降りるか道路側の爆走するカーキャリアに飛び込むか、でもどのやり方をしたって確実に死に至るかどうかも分からず、仮に死ねたとしても死体を処置する仕事の人にトラウマを与えようし、カーキャリアーを運転している人の一族郎党に至るまでわたしを跳ね殺してしまったっていう言われのない自虐に苛まれてしまうのだろうって思うと躊躇するだろうけど刃物男なら。

 死ぬのを人のせいにできるかも、って思ったんだよね。

 探しに行こう。

 楽しきことを。

 わたしは想像する。

 その刃物男の持ってる武器はひょっとしたら代々その家に伝わる、名品と呼ばれる刀だったら即死させて貰えるかな、とか。

 でもわたしは知ってる。

 そういう問題じゃないことを。

 死んでも何も解決しない。なぜならさ。

 輪廻を逃れるなんて今のわたしには虫が良すぎるから。

 今のわたしには。
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