第153話 ご同行願います

文字数 1,018文字

 シナリが同行してくれた

 松山在住とのことであり、松山市内八ヶ寺打ちのスタートとなる 第四十六番札所 医王山 養珠院 浄瑠璃寺 の前にショッピング・モールで出遭えたのは幸運だった

 いや、そこで発生したインシデントはなかなかに辛いものではあったけれども

 あの3人の大学院生は結果的には研究を続けるだろうしネッチャー誌への論文発表も取り下げないだろう

 ただ、はっきりとこう言った

 南無大師遍照金剛

 だからあの3人が仮に悪を嗜好するような研究を目指したとしても、弘法大師さまが必ずや正しい道へを引きずってでもお導きになるだろう

 それか、途中で研究者の道を取り上げて、額に汗して働く職業をお与えになられるだろう

「さて、シナリちゃん」
「はい」
「あなたのこと教えて?」

 ギャランの中で女3人がざっくばらんに語り合う

 これまたよきだよね

「わたしはお大師さまフォロワーなんです」
「フォロワー?」
「はい。四国は地元ですから、休みの度にこのお大師さまと一緒に週末遍路をしています」

 そう言って彼女が観せてくれたのはお大師さまのイラストが封入されたレジンだった

「これはシナリちゃんが?」
「はい。えと、イラストを描いたのがわたしでレジンにしてくれたのは友だちです」
「友だちもお大師さまフォロワー?」
「いいえ、彼はそこまでではありません」
「ちょ、今『彼』って言った?」
「はい」
「彼、なの?」
「え。男だから彼で合ってると思いますけど」
「そうじゃなくて、『彼氏』じゃないの?」
「『彼氏』じゃないのです」

 ふ
 
 ふふふ

 なんか、いいな、この子…

「お大師部を高校に作ろうと企てています」
「へえー。ねえ、シナリ、もしできたらわたしも入りたいな」
「モヤさんがですか?」
「うん。そう」
「もちろん、先達ドライバーのモヤさんなら大歓迎ですけど」
「ちょっと、モヤ。何する部か分かって言ってるの?」
「あ、シャムさん、大丈夫ですよ。お大師さまのイラスト描いたり参拝先のお寺でお大師さまにお供えするスイーツを作ったり」
「いいねえ。わたしの四国愛も満たされそうだよ」

 ところでシナリは三巡目の途中だという
 高校を卒業するまでに五巡はしたいという

「どうして?」
「…変ですか?」
「だって、それだけお遍路に出てたら他のことやる時間ないぐらいじゃない?」
「シャムさん。それがですねえ…」

 ギャランの車内でわたしたちしかいないのに周囲を窺う仕草をする

「わたし、やってるんですよ。『虚空蔵求聞持法』を」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み