第274話 リアルとリアリティはちがうよ

文字数 680文字

 物語じゃだめだってことはわかってる

 どんなにリアリティがあろうとも

 リアルでないと

 戦争で亡くなったひとのリアル

 災害で亡くなったひとのリアル

 犯罪で亡くなったひとのリアル

 いじめで自殺した子のリアル

 カラードでないのに人種差別撤廃を訴える小説は書けないと言ってるんじゃない

 戦争を体験してないのに戦争を書けないと言ってるんじゃない

 いじめを体験してないのにいじめを書けないと言ってるんじゃない

 地に足着けよ ということなんだろうと思う

 仕事のあるひとが仕事をないがしろにして書いた物語が果たして意義ある物語となるかどうか

 介護における扶養義務のあるひとが介護を放棄してなす研究がほんとうに世のひとを救う研究になるのか

 自分の跡取り夫婦を済度することをひとごとのようにあしらいつづける老人が人助けだと言ってボランティアをすることはほんとうにそれは奉仕なのか

 病気のひとは病気のままに

 悩めるひとは悩みのままに

 醜いひとは醜のままに

 泣きたいひとは泣きたいままに

 そうして書いたり歌ったり演じたり撮ったりすることがまことなのではないか

 今まではもしかしたら時間稼ぎのための芸術でよかったのかもしれない

 けれどもたとえば世界のあちこちで起こっている戦争に引き込まれることになったとして

 もう時間稼ぎの芸術では間に合わない

 芸術とは厳しいものとおもう

 同時に芸術とは優しいものとおもう

 右手に芸術を持ちて灯火のように桃花をともして

 そういえばもうすぐ桃の節句

 桃の神さまをたたえるように

 ほんとうの芸術でもって灯火と桃花で

 リアルを生きるひとたちのためにささげよう
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