第53話 呼び出しを喰らったら土砂降りの中を歩け
文字数 2,625文字
随分と久しぶりに呼び出されちゃって。
デート?
そんないいもんじゃないよ。
「ここかな」
緯度と経度で指定されたから使い慣れないスマホのGPS機能を使って行ってみるとね。
墓場なんだよこれがまた。
「やだなあ。なんで仕事帰りにこんな場所に来なくちゃいけないんだろ」
しかもこの墓場ってまともな造りになってなくて、合唱コンクールの登壇用の段々みたいなのをコンクリートで作った上にやっぱり墓石というかコンクリートに近い材質の石を使った墓標がいくつも乗っかってて、わたしが何年か前に夢で見た時にはこういう造りの墓場の段々の上に猫が何匹もいてウニャウニャ鳴いててさすがに怖くて午前2時半に目を覚ましてそのあと二日間眠れなかったよ。
しかも今わたしの眼前にあるこの墓場は、街で一番大きなスーパーマーケットのバックヤードの建屋と、街で二番目に大きなシネマコンプレックスとの隙間のスペースに目隠しされるようにしてあるんだよね。
関係ないけどシネコンとシスコンと死ね今度って似てるよね別に気にもしなくていいけど。
「やだなあ。でもわかってるんだよなあ、何で今日呼び出されたか。わたしが昨日お瀧に辿り着いてお不動さまに願掛けしたからだろうなあ」
案の定だったよ。
それでそいつが現れる時はいつでも土砂降りになるんだよ。
ザーザーザザーザーザーザザザー
「久しぶりだな、捨無 」
「えー!?なんて言ったのー!?」
ザーザーザザーザーザーザザザー
「久しぶりだな!って言ったんだ!」
「ごめん!全然聞こえないよ!」
わたしがそう言ったらコイツは顔はわたしの方に向いたまま右手だけコンダクターがオーケストラに『はいやめ!』ってする時の、くるんすとん、ていうようなあの手の動きをしてさ、そうしたら雨が0.1秒で止んだ。
みたいだ。
「久しぶりだな、シャム」
「別に。せいぜい100年振りでしょ」
「前遭った時はまだ赤子だったな」
「見た目はね」
「あの時も墓場だったか」
「もっとまともなね」
「おい」
「なに」
「そろそろ俺の名前を言ってくれ」
「知らないよ」
そうなんだ
コイツの名前は誰も覚えていない。
命名した親すら忘れてしまったんだよね。だから便宜的にこう訊いてみたよ。
「アンタの今住んでる部屋って何号室?」
「?502号室だが?」
「じゃあ502号」
「・・・・・・・まあいい。で?呼び出された理由はわかってるよな?」
「大体は」
「昨日、行けないはずの所へ行っただろう」
「『行った』じゃなくて『行けた』だよ」
「まるでお呼ばれしたような言い方だな」
「事実そうだと思ってるよ。だってわたしがあのお瀧に行こうっていう意思を毛ほどでも持てたのはわたしが鬱で苦しんでたからだもん。そうでなかったら縋ろうとは思えなかっただろうし絶対に行けなかったと思う」
「でもそれはシャムが自ら求めて自らの意思で行ったということだからシャムの自己責任だろうが」
「お不動さまに何かご迷惑がかかるんならそれでもいいけど、どう考えてもお呼びくださったとしか思えない」
アゲハも居たしね
「シャム。ルール違反だ、不動明王の力を借りるのは。それと、鬱になるなど弱っち過ぎる」
「502号。あなたは力を借りてないの?」
「シャム、それは問題のすり替えだ。俺は交差点の観音堂に一部俺自身の運命を託してはいるがそれは力を借りているっていうのとは違う。純粋に『どうなっても構わない』っていう感覚で委託してる訳だ」
「痛くしてる?」
「くだらないボケをするな。シャム、お前がAIの自律攻撃兵器のようにドライに無感情に機械的に誰かを敢えて『助けない』という選択ができることを知ってるんだぞ」
「わたしが『捨てる』とでも?」
「『助けない』という選択ができると言ってるんだ」
助けたいけど助けられなかったっていう話は通じないんだよね、502号の元締めには。
「502号」
「なんだ」
「今日わたしを呼び出したのは、誰の意思?」
それを言うと502号は止まった。
全ての動きが。
そうして今度は高速で動き出した。
「おおおおおおお俺俺俺俺、お、お、お、お、俺俺俺俺」
「オレオレ?」
「お、お、俺に決まってんだろうが!」
「嘘だ」
「嘘じゃない!」
「ならば訊いてみようか。あんたの上司に」
「や、やめやめやめやめ!やめてくれ!」
「どうして?あんたが勝手にわたしを呼び出したんじゃなくてきちんと内部決裁を取った上の話ならばそんなにうろたえることないでしょ?」
「う、う、う、う」
「違う?」
とうとう502号は認めた。
「お、俺の独断でシャムを呼び出した」
「ふうん。なんで?」
「それは・・・・・・・言えん」
「じゃあ上司に言ってやろ」
「やめろ!」
「なら理由を言って?」
「て、点数が稼ぎたかったからだ」
「上司に言う」
「わ、分かった!言う!言うから!」
「それでいいんだよ」
「あ、遭いたかったからだ」
「?え?」
「シャムに!遭いたかったからだ!」
「・・・・・やめてよね」
大体よく考えたら100年前のその時はわたしは見た目は赤子だったわけだから、そういうのを何ていうの?
ロリコンですらなくて赤んぼフェチ?とでも言うの?
「バ、バカ!そうじゃない!シャムの成長をずっと見てたんだ!」
「100年間?」
「そ、そうだ」
「502号、あんた何歳?」
「わからない。わからないんだよ!」
まあ悪い気はしない。
わたしみたいな凡庸以下でアングルを色々と変えてみたらキモいだろう女をずっと見ててくれたなんてね。
ただ・・・・・・コイツの容姿がねえ・・・・・
「502号。告げ口しないからその代わり、もし今後正式にアンタん所の内部決裁を取った監査であんたが検査官としてわたしを検査しに来ることがあったとしたら、お不動さまにお遭いしたことはズルじゃないって監査報告書いてよ?」
「そんな権限は俺には!」
「カイテヨ」
わたしがまるで聴覚障碍の超乃 ちゃんが訓練で音声を発することのできるようになったそれと似た音声で凄むつもりもないけどカタカナで発音したら、502号はね
「は、はい!」
って了承してくれた。
「そろそろ帰らないとマズいんじゃないの?」
「う、うん。なあシャム」
「なに」
「今日も俺の眼を一度も見つめてくれなかったな」
「はあ?」
「次は眼ぐらい合わせてくれよ」
そう言って502号は行ってしまった。
みたいだ。
いつ居なくなったのか全く分からなかった。
だって、姿形 が無いから。
空気に向かって喋ってるみたいなのに、どうやって眼を見ろと。
デート?
そんないいもんじゃないよ。
「ここかな」
緯度と経度で指定されたから使い慣れないスマホのGPS機能を使って行ってみるとね。
墓場なんだよこれがまた。
「やだなあ。なんで仕事帰りにこんな場所に来なくちゃいけないんだろ」
しかもこの墓場ってまともな造りになってなくて、合唱コンクールの登壇用の段々みたいなのをコンクリートで作った上にやっぱり墓石というかコンクリートに近い材質の石を使った墓標がいくつも乗っかってて、わたしが何年か前に夢で見た時にはこういう造りの墓場の段々の上に猫が何匹もいてウニャウニャ鳴いててさすがに怖くて午前2時半に目を覚ましてそのあと二日間眠れなかったよ。
しかも今わたしの眼前にあるこの墓場は、街で一番大きなスーパーマーケットのバックヤードの建屋と、街で二番目に大きなシネマコンプレックスとの隙間のスペースに目隠しされるようにしてあるんだよね。
関係ないけどシネコンとシスコンと死ね今度って似てるよね別に気にもしなくていいけど。
「やだなあ。でもわかってるんだよなあ、何で今日呼び出されたか。わたしが昨日お瀧に辿り着いてお不動さまに願掛けしたからだろうなあ」
案の定だったよ。
それでそいつが現れる時はいつでも土砂降りになるんだよ。
ザーザーザザーザーザーザザザー
「久しぶりだな、
「えー!?なんて言ったのー!?」
ザーザーザザーザーザーザザザー
「久しぶりだな!って言ったんだ!」
「ごめん!全然聞こえないよ!」
わたしがそう言ったらコイツは顔はわたしの方に向いたまま右手だけコンダクターがオーケストラに『はいやめ!』ってする時の、くるんすとん、ていうようなあの手の動きをしてさ、そうしたら雨が0.1秒で止んだ。
みたいだ。
「久しぶりだな、シャム」
「別に。せいぜい100年振りでしょ」
「前遭った時はまだ赤子だったな」
「見た目はね」
「あの時も墓場だったか」
「もっとまともなね」
「おい」
「なに」
「そろそろ俺の名前を言ってくれ」
「知らないよ」
そうなんだ
コイツの名前は誰も覚えていない。
命名した親すら忘れてしまったんだよね。だから便宜的にこう訊いてみたよ。
「アンタの今住んでる部屋って何号室?」
「?502号室だが?」
「じゃあ502号」
「・・・・・・・まあいい。で?呼び出された理由はわかってるよな?」
「大体は」
「昨日、行けないはずの所へ行っただろう」
「『行った』じゃなくて『行けた』だよ」
「まるでお呼ばれしたような言い方だな」
「事実そうだと思ってるよ。だってわたしがあのお瀧に行こうっていう意思を毛ほどでも持てたのはわたしが鬱で苦しんでたからだもん。そうでなかったら縋ろうとは思えなかっただろうし絶対に行けなかったと思う」
「でもそれはシャムが自ら求めて自らの意思で行ったということだからシャムの自己責任だろうが」
「お不動さまに何かご迷惑がかかるんならそれでもいいけど、どう考えてもお呼びくださったとしか思えない」
アゲハも居たしね
「シャム。ルール違反だ、不動明王の力を借りるのは。それと、鬱になるなど弱っち過ぎる」
「502号。あなたは力を借りてないの?」
「シャム、それは問題のすり替えだ。俺は交差点の観音堂に一部俺自身の運命を託してはいるがそれは力を借りているっていうのとは違う。純粋に『どうなっても構わない』っていう感覚で委託してる訳だ」
「痛くしてる?」
「くだらないボケをするな。シャム、お前がAIの自律攻撃兵器のようにドライに無感情に機械的に誰かを敢えて『助けない』という選択ができることを知ってるんだぞ」
「わたしが『捨てる』とでも?」
「『助けない』という選択ができると言ってるんだ」
助けたいけど助けられなかったっていう話は通じないんだよね、502号の元締めには。
「502号」
「なんだ」
「今日わたしを呼び出したのは、誰の意思?」
それを言うと502号は止まった。
全ての動きが。
そうして今度は高速で動き出した。
「おおおおおおお俺俺俺俺、お、お、お、お、俺俺俺俺」
「オレオレ?」
「お、お、俺に決まってんだろうが!」
「嘘だ」
「嘘じゃない!」
「ならば訊いてみようか。あんたの上司に」
「や、やめやめやめやめ!やめてくれ!」
「どうして?あんたが勝手にわたしを呼び出したんじゃなくてきちんと内部決裁を取った上の話ならばそんなにうろたえることないでしょ?」
「う、う、う、う」
「違う?」
とうとう502号は認めた。
「お、俺の独断でシャムを呼び出した」
「ふうん。なんで?」
「それは・・・・・・・言えん」
「じゃあ上司に言ってやろ」
「やめろ!」
「なら理由を言って?」
「て、点数が稼ぎたかったからだ」
「上司に言う」
「わ、分かった!言う!言うから!」
「それでいいんだよ」
「あ、遭いたかったからだ」
「?え?」
「シャムに!遭いたかったからだ!」
「・・・・・やめてよね」
大体よく考えたら100年前のその時はわたしは見た目は赤子だったわけだから、そういうのを何ていうの?
ロリコンですらなくて赤んぼフェチ?とでも言うの?
「バ、バカ!そうじゃない!シャムの成長をずっと見てたんだ!」
「100年間?」
「そ、そうだ」
「502号、あんた何歳?」
「わからない。わからないんだよ!」
まあ悪い気はしない。
わたしみたいな凡庸以下でアングルを色々と変えてみたらキモいだろう女をずっと見ててくれたなんてね。
ただ・・・・・・コイツの容姿がねえ・・・・・
「502号。告げ口しないからその代わり、もし今後正式にアンタん所の内部決裁を取った監査であんたが検査官としてわたしを検査しに来ることがあったとしたら、お不動さまにお遭いしたことはズルじゃないって監査報告書いてよ?」
「そんな権限は俺には!」
「カイテヨ」
わたしがまるで聴覚障碍の
「は、はい!」
って了承してくれた。
「そろそろ帰らないとマズいんじゃないの?」
「う、うん。なあシャム」
「なに」
「今日も俺の眼を一度も見つめてくれなかったな」
「はあ?」
「次は眼ぐらい合わせてくれよ」
そう言って502号は行ってしまった。
みたいだ。
いつ居なくなったのか全く分からなかった。
だって、
空気に向かって喋ってるみたいなのに、どうやって眼を見ろと。