第183話 ホンモノの護国の戦士とは

文字数 1,386文字

 第74番札所 医王山 多宝院 甲山寺

 毘沙門天の巌窟がおわす

 その場所に悪逆の徒からの受信があった

『シャムさん』
「なんでこの番号を?」
『なんでもわかる 尊師だから』
「嘘」
「シャム、こいつらピーピングが専門なんだよ たとえばこいつらが仮に檀家を持つような寺院なりを手に入れてご覧よ 月参りの独居老人の預金通帳から病院の診察カードに至るまで全部盗めるよ おまけにその老人がどんな性癖を持っていて過去にどんな性交渉の仕方をしてたかまで」
『モヤさん 想像力豊かですね』
「現にやってたろうが!それで士業の一家を殺したろうが!」
「モヤ いいよ」

 わたしはモヤの怒りをそのまま唇に込めてゼニンに返事した

「それで?」
『トンビがミサイルを防いだと思ってるんだろう』
「思うもなにも事実でしょう」
『トンビがなんだったか知りたいか?』
「護国の鳥よ」
『はは あのトンビどもは全員無駄死に犬死に人間どもの生まれ変わりだ』
「もう一度」
『戊辰以来の第二次世界大戦に至るまでのこの日本とかいう国の英霊なんてふざけた名前で呼ばれてる亡霊どもが鳥ごときに転生して苦しんでるそいつらをもう一度殺したのだよ』
「ガガガガガガガガガ!!」

 理性など、いるか

 わたしは通話口でゼニンの鼓膜を破るために急性喉頭癌になることを覚悟してがなりつけた

『おお危ない 耳は離したからノーダメージですよ』
「この、ファッキンが!」
『ああ…冷静なフリして正論ぶってた女の子が自論では勝てなくて喚き叫ぶのを聴くのはたまらないラグジャリーですね まるであの士業の家族のようだ』
「殺してやるぅ!」
「シャム!シャム!」

 う

「落ち着いて、お願いだから…」

 怒りは時として逆に冷静さを取り戻すために必要だ

 世間ではそれを『ひくわー』とか茶化すリアクションが一般的になってるけど、わたしは決してそうは思わない

 ホンキの人間の眼をまともに観ない人間の方にひくわ

『モヤさん さっきの威勢は?』
「黙れ売国奴 必ずやオマエに仏罰をくれてやる」
『ほう…それこそワタクシの最たる喜びですよ なにせ「あなたがたの仏」は罰で人を動かす程度の存在だと露呈するわけですから』
「ゼニン」
『なんですか、シャムさん』
「75番がどういう場所か知ってる?」
『75番は誕生の地でしょう 聖者ぶってるその僧の』
「ゼニン 知ってるのよ」
『ふふ 何を』
「アナタ、虚空蔵求聞持法に失敗してるでしょう」

 すべての風がやんだよ

 上昇気流も止まった

 ダウンフォースばかりでトンビも今上空にいたならば全羽墜落しただろう

『ガガガガガガガ!』
「この、愚か者が この、卑怯者が 厳粛きわめるその行を SNSに映えをとて 覚悟もなにもないままに 始めたその日の夜のうちに 空中浮遊の偽写真 あげてわれは悟りしと 大ボラ吹いてふれまわり 本来自決をすべき身が 世迷い気狂い色気狂い 善なるサムライ一家ごと 闇夜に葬り去りし罪 観てる聴いてる知っておる われらのホントの仏さま なにとぞ彼をぞ真人間 真人間へとお導き 南無正義のお不動よ 左の縄で縛り上げ 右手の剣で真っ二つ この悪逆の愚か者 どうぞ善へとお導き」
『この売女!』
「なんだこの売国奴」

 モヤもわたしもこのうえない静かなココロを手に入れた

 どうしてやろうか

 こうしてやろうか

『75番ごと滅ぼしてやる!』
「ゼニン 75番で、アナタを済度してあげる」 
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