第103話 女男差別はセックスで溶けるのさ

文字数 1,130文字

 わたしはフェミニストってわけじゃなくて。
 女だろうが男だろうが誰かが誰かを蔑んだり虐げたりすることをこそ問題視するのであって。

 だから、捨てない。女だろうと男だろうと。
 捨てること無し、でシャムなんだよ。

「モヤ。また教えを請いたいのだけれども」
「なに。シャム。またかしこまって」
「この十番の札所の切幡寺は薬子の変に関係した人の子に男の子が生まれたらまた咎を受けるのでその母親が観音様に女子を授かるようにと願ったらほんとうに授かって、その生まれた女の子のところに弘法大師さまが来られてさ。織っていた布を弘法大師さまのほころびた法衣をつくろうのに差し上げたらさ。弘法大師さまが女子誕生のいきさつをお聞きになって観音様の像をお彫りになったらその織物をしていた女の子がすぐに成仏して観音さまに変化された、ってことなんでしょ」
「予習がすごいね、シャム。そのとおりだよ」
「もともと女は成仏できない前提なの?」

 しばらくモヤは黙ってしまった。

「シャム。この話だけどどうしてそう思うの?」
「だって、わたしね、知ってるんだ。子供の頃に身の周りにいたお年寄りたちが…特におばあちゃんたちが色々話てたんだけどさ。女子が一旦男子に変化してから成仏する話とかさ、本来普段は女子は立ち入れない神の山に年一度だけは入山を許される話とかさ。女子は罪深くて成仏できないっていうのはやっぱり事実あるのかな」
「シャム」
「うん」
「愚問だよ」

 うん。

 わたしもほんとはわかってる。

 だって、わたしの恩人であるそのひとは自身が女で、ごく普通の主婦で、畑仕事をしてたんだから。

 世に知られるわけでも威張り誇るわけでもなくって、静かに苦しむひとたちの背中をさすってさ。

『そうかそうか』って慰めていたのだから。

 そして恩人と縁の深いやっぱりおばあさんはさ、わたしにさ、

『女子でないと仏とのやりとりは真にはできんのよ。男子には色欲、というものがどうしてもあるから。もちろん女子にだって色欲はあるけれども男子ほど即物的ではないのよ』

って言ってたんだから。

 だから女子だろうと男子だろうと、単に急所だけの快感や見栄でもってすぐにセックスをしてしまうひとたちを憐れんでいた。

 その恩人に縁の深いおばあさんはこうも言ってた。

『性は生理現象であるとともにとても厳かなもの。おふざけだけでやっちゃいけないもの。夫婦かどうかによらず、肌を重ねる以上はココロにまで互いの慈悲が沁みていって、この娑婆を乗り切っていくための暖かなものがどこかにないといけない』

って。

 だからね。
 
 わたしはモヤの答えもほんとうはもうわかってたんだ。

「シャム。この国の大親さまである日の神様はね」
「うん」
「そもそもその日の神さまはね、女神さまだよ」




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