第202話 スピリチュアルでなくフィジカル

文字数 1,235文字

 精神の大切さはわたしも否定しないけれどもシャムの遺志から伝わってくるのはむしろ物理的なものだったよ

 シャムの恩人の言葉によるとね、52段高なんだって

 52段も位が上だから観えないだけであって物理的にそこにおわすの

 精神は多分『信じる』という感覚に繋がるもののような気がする

 対して物理は?

 物理っていってもお勉強のことじゃないよ、アイスを食べたら冷たいとか

 ぎゅーっ、てされたらぽかぽかするとかそういう話だよ

 あなたは神を信じますか?なんて言葉は実はあまり意味がなくて

 あなたやわたしが信じようが信じまいが、そこにおわすんだもん

 だってみんな元旦になると大騒ぎして普段はパワースポット以外のところに顔出ししないクセに湧いて出てきたみたいに地元の神社に参拝するのは社殿に『精神性とか哲学』が浮遊してるからじゃなくてそこに目に見えるものとしてはご神体が、位が高すぎるから観えないものとしてはホンモノの神様が実体としてそこにおわすのを認めざるをえないから行くんだよね?

 そしてね、極めて大事なことはね

 既にしてそこに物理的に実体として神さまがおわすっていうことはさ

 あなたもわたしも『捨てられていない』ってことじゃないのかな?

 ごめんね 5歳なのに偉そうなこといって

 でもほんとのことだから言わずにはいられないんだ
 

 精神性じゃないっていうことはね

 実行を伴うっていうことだよ

 弘法大師さまは伽藍に篭って経ばかり詠んでおられたわけではけっしてなくってね

 経典や密教のさまざまな仏具を使った祭式やそれらの深い教えから吸収し自らの頭脳とココロとでお考えになられたものをね

 実行した

 ううん、『決行』っていう言葉の方がよりしっくりくるよね

 日本ていう国の尊い神仏の息吹をもって、野山を駆け巡られた

 民の実生活の中に飛び込んでいって、井戸を掘り、薬草で病を治し、絶望の淵に沈むひとの隣に寄り添って、ほんとうのほんとうに、虚空蔵求聞持法によって得た無類の記憶力とそれによって驚くべき短期間でマスターなさった密教の真髄のすべてをフルに出し切られて

 決行した

 そもそもが

 幼少の頃、仏道修行にかなう身かどうかを試すために身投げをし

 恐ろしい伝染力を持つかもしれぬ病人の膿を吸い出してやり

 唐へ渡る遣唐船の航海は嵐となりその嵐の中を甲板に立って不動明王真言を唱え、嵐すら大日如来さまの息吹と刮目なさり、それだけでなく船に飲料水すら尽きたその時にも、己の尿を飲んでまでして生きて唐の大地を踏み、仏の教えを掴み取られた

 あっぱれ日本の誉れ

 のみならず世界の誉れ

 いやいやまだ足りない

 遍く衆生の、まだまだ! 風も日も虫も草木も獣たちをも含めたおよそすべての生類のほまれ

 それでもおさまらないこのお方の大功徳は、生きながらにして入滅なさり、それはまさしく哲学や観念やましてや世界観やら信念などではない、フィジカルな決行

 まこと物理的な実体としての成仏

 ほんとうにホンモノの仏となられたのであったよ
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