第266話 ひとのこころむずかし

文字数 1,034文字

 人のココロはむずかしい

「自分に都合のよい時は彼此いうて出入りする
 一度意見を間違えば 互いに恨み憎み合い
 昨日も暮れた 今日もまた
 あるやないやにとらわれて
 明けても暮れても罪ばかり」
『シャムの恩人の歌か』
「うん」
『わたしもミコに対していずれそうなる…って思ってるのか?』
「ううんそうじゃない」
『じゃあどうなんだ』
「ゲンムだからとかそういうことじゃない 仮に親であってもそうなるっていうこと」
『そうなったのか?』
「シャムはそういう過去世があったみたい」
『シャムは親を恨んでるのか』
「最初は恨んでたみたい でもね」
『うん』
「そもそも親は親じゃなかった ってことが分かったら吹っ切れたみたい」
『親が親でない?』
「そう 娑婆での関係性は確かに親子だけれども実はシャムの方が」
『親だったっていうのか』
「ううん 親とか子とかいうよりも 済度してもらえよ っていう意図で母親のお腹を借りたみたい」
『お腹を借りた?』
「そう」
『誰が借りたんだ シャムか?』
「ちがう」
『じゃあ誰だ』
「シャムの恩人」
『…成程』
「まだ続きがあるよ」
『…うん』
「父親の精子は使ってない」
『?…え?』
「無精卵だった」
『そんなこと』
「あるよ」
『でもなあ』
「ゲンム」
『なに』
「わたしはゲンムとはそうなりたくない」
『ああ‘都合のいい時だけ彼此いうて出入りする’っていう関係にか?』
「ううん そうじゃない そうじゃなくてね」
『うん』
「腹を貸しただけのことなのにそれを取り違えてまるで自分たちが神か仏かであるみたいなそんなことを生まれたその子に対して思い込ませるようなそんなことをするのと同じような間柄にはなりたくない」
『…もしミコの言ってることがほんとだとしたら…シャムは夫婦の営みなしに生まれたってことか』
「そう」
『でもそれって』
「だからだよ だからわたしはゲンムに言うんだよ その事実を取り違えるような まるで自分自身が神さまでもあるかのようなそういう思い違いのままでゲンムを遠ざけるようなそういう人間にはなりたくないの」
『突然女の子らしい言葉遣いになるなよ』
「でもそうでもしないと」
『ミコ わたしだって分かってるよ シャムが過去世を幾度もくりかえしてるってことは こういうことだろ』

 ゲンムはそこで一旦手話を止めて
 
 わたしに目で語った

 わたしも目で応えた

『『肉体女なら魂男 肉体男なら魂女』』

 まったく矛盾しない

 矛は盾

 盾は矛

 一刻も早い停戦を

 一刻もはやくなんとかして和平を

 大難を小難に

 間に合わないよ
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