第167話 原因はあなたの思うようなことでは全くないよ
文字数 1,734文字
第五十六番札所 金輪山 勅王院 泰山寺
弘法大師さまが訪れた村は川の氾濫で毎年大勢の人たちが命を奪われていたという
その原因が
悪霊
「モヤ。戦争の原因ってなんだと思う?」
「戦争の…?」
モヤは真面目に色々と考えてくれた
「もともとは経済的要素だよね…資源をより多く確保するために島を実効支配したりとか…やっぱりお金なのかなあ」
「過保護な親」
「えっ」
「戦争の原因は、過保護な親」
以前わたしたちは単に自分の子や孫の栄達しか考えない依怙贔屓する我欲の守護霊を悪霊と決めつけた
要は同じ話だよ
「戦争はそれを引き起こそうとする、主にはその国の官位あって且つ国を私物化しようとする人間の親が後押しするんだよ。『おお、おお、ワシの志を継いでくれるか、かわいやのう』っていう愚昧な親が、生きてようが死んでようがその子どもの自己実現と自分の自己実現を重ね合わせて、小さいところでは『おお、おお、便所へは行ったか?戦争で指揮を執らんといけなくなった時に小便をしたくなったら困るから行ける時に行っておくがよいぞ』って言ったり『おお、おお、兵隊の徴用を嫌がる奴はおらんか?ワシがそういう奴を脅して説得してやるぞ』とか」
「脅して説得、か。バカ親だね」
「でもモヤ。それがほんとうのほんとうに現実なんだから、もう世界がどうとか経済がどうとか国際関係がどうとかいう話じゃないかもしれない。その国の国民は全員この滑稽で憐れなる親と子のおおよしよしうんうんていうベトベトに引き摺り込まれてるんだよ」
モヤとふたりしてギャランのドアに腰の辺りを押しつけてその反る力で空を見上げて四国のやさしい雲を観ていたら、その雲から当の愚痴な親の守護霊=悪霊がカラダを横に引き伸ばすようなアングルでわたしとモヤの顔の間近に息を吐きかけてきた
「ワタシの子にひれ伏さぬかぁ!」
「アンタ、誰の親だ」
「この国で一番偉い者の親だぁ!」
「この国で一番偉いのは神仏だ」
「違ぁう!ワタシの子が一番偉いのだぁ!」
民間人から出た人間でこの母親だか父親だかわかりづらい両性具有ふうの過保護で依怙贔屓な悪霊を守護霊に持つ人間っていったら大体ひとりしかいないだろうが
「アンタの子は別に偉くない。神託をすり替えることによって偉ぶっているだけだろ」
「ワタシの子が話す言葉がすなわち神託だぁあ!」
狂ってるんだろうか
それとも微動だにしない厚かましさの極地のような脅迫そのものの説得で忖度してもらうことを公然のルールだと思い込んでいるんだろうか
「シャム。わたしに交渉させてもらっていい?」
「…大丈夫?」
「わからないけど、さっきから聞いてて腹が立ってしょうがないから」
「じゃあお願い」
モヤが足を肩幅に開いて右の二の腕をぴったりと耳に密着させて、そうして拳を真っ直ぐ天空に突き上げた
「悪霊、死ねっ!」
「ぐわぁお!」
モヤのそれは交渉でもなんでもなかった
ひょっとしたら悪霊が執る姑息な裏交渉に付き合っているほど人生は長くないっていう感覚をモヤは常に持ってるからかもしれない
そうしてその感覚の重要なポイントは
決して自分が悪いと思ってはならないということ
「国民は愚昧だぁ!ワタシの子供を支持しないぃ!」
「そうだよね。脅してぶん取る応援なら、それって支持じゃないもんね」
「なぜにオマエのような小娘があの子の親のわたしに抵抗できるのかぁ!」
「正しいから」
「なにおぅ!?」
「正しいから。アンタみたいに間違いを認められないような輩と違うから。アンタの子みたいに都合よく他人を支配するために『オマエの方がバカだからだ』みたいな嘲笑を公の国民全員が観てるような場所では絶対にしないから。アンタの寿命がもう尽きてることがわかってるから」
「でもワタシはこうしてオマエらの目の前にいるぞぉぉ!」
「そらごと」
「うぉ!」
「たわごと」
「うぉうぉうぉう!」
「そら事たわ事まこと無し」
「うぉいゃあ!」
「もういっかい言うよ。悪霊、死ねっ!」
ドロドロと溶け始めた
ううん、もともと形なんてなかった
都合いい時にだけ形を持てる、どうにもならない憐れなる存在っていうだけだった
だから亡骸もドロドロだ
モヤはわたしに訊いた
「過保護な親と、その子供と、どっちが悪いの?」
「どっちも」
弘法大師さまが訪れた村は川の氾濫で毎年大勢の人たちが命を奪われていたという
その原因が
悪霊
「モヤ。戦争の原因ってなんだと思う?」
「戦争の…?」
モヤは真面目に色々と考えてくれた
「もともとは経済的要素だよね…資源をより多く確保するために島を実効支配したりとか…やっぱりお金なのかなあ」
「過保護な親」
「えっ」
「戦争の原因は、過保護な親」
以前わたしたちは単に自分の子や孫の栄達しか考えない依怙贔屓する我欲の守護霊を悪霊と決めつけた
要は同じ話だよ
「戦争はそれを引き起こそうとする、主にはその国の官位あって且つ国を私物化しようとする人間の親が後押しするんだよ。『おお、おお、ワシの志を継いでくれるか、かわいやのう』っていう愚昧な親が、生きてようが死んでようがその子どもの自己実現と自分の自己実現を重ね合わせて、小さいところでは『おお、おお、便所へは行ったか?戦争で指揮を執らんといけなくなった時に小便をしたくなったら困るから行ける時に行っておくがよいぞ』って言ったり『おお、おお、兵隊の徴用を嫌がる奴はおらんか?ワシがそういう奴を脅して説得してやるぞ』とか」
「脅して説得、か。バカ親だね」
「でもモヤ。それがほんとうのほんとうに現実なんだから、もう世界がどうとか経済がどうとか国際関係がどうとかいう話じゃないかもしれない。その国の国民は全員この滑稽で憐れなる親と子のおおよしよしうんうんていうベトベトに引き摺り込まれてるんだよ」
モヤとふたりしてギャランのドアに腰の辺りを押しつけてその反る力で空を見上げて四国のやさしい雲を観ていたら、その雲から当の愚痴な親の守護霊=悪霊がカラダを横に引き伸ばすようなアングルでわたしとモヤの顔の間近に息を吐きかけてきた
「ワタシの子にひれ伏さぬかぁ!」
「アンタ、誰の親だ」
「この国で一番偉い者の親だぁ!」
「この国で一番偉いのは神仏だ」
「違ぁう!ワタシの子が一番偉いのだぁ!」
民間人から出た人間でこの母親だか父親だかわかりづらい両性具有ふうの過保護で依怙贔屓な悪霊を守護霊に持つ人間っていったら大体ひとりしかいないだろうが
「アンタの子は別に偉くない。神託をすり替えることによって偉ぶっているだけだろ」
「ワタシの子が話す言葉がすなわち神託だぁあ!」
狂ってるんだろうか
それとも微動だにしない厚かましさの極地のような脅迫そのものの説得で忖度してもらうことを公然のルールだと思い込んでいるんだろうか
「シャム。わたしに交渉させてもらっていい?」
「…大丈夫?」
「わからないけど、さっきから聞いてて腹が立ってしょうがないから」
「じゃあお願い」
モヤが足を肩幅に開いて右の二の腕をぴったりと耳に密着させて、そうして拳を真っ直ぐ天空に突き上げた
「悪霊、死ねっ!」
「ぐわぁお!」
モヤのそれは交渉でもなんでもなかった
ひょっとしたら悪霊が執る姑息な裏交渉に付き合っているほど人生は長くないっていう感覚をモヤは常に持ってるからかもしれない
そうしてその感覚の重要なポイントは
決して自分が悪いと思ってはならないということ
「国民は愚昧だぁ!ワタシの子供を支持しないぃ!」
「そうだよね。脅してぶん取る応援なら、それって支持じゃないもんね」
「なぜにオマエのような小娘があの子の親のわたしに抵抗できるのかぁ!」
「正しいから」
「なにおぅ!?」
「正しいから。アンタみたいに間違いを認められないような輩と違うから。アンタの子みたいに都合よく他人を支配するために『オマエの方がバカだからだ』みたいな嘲笑を公の国民全員が観てるような場所では絶対にしないから。アンタの寿命がもう尽きてることがわかってるから」
「でもワタシはこうしてオマエらの目の前にいるぞぉぉ!」
「そらごと」
「うぉ!」
「たわごと」
「うぉうぉうぉう!」
「そら事たわ事まこと無し」
「うぉいゃあ!」
「もういっかい言うよ。悪霊、死ねっ!」
ドロドロと溶け始めた
ううん、もともと形なんてなかった
都合いい時にだけ形を持てる、どうにもならない憐れなる存在っていうだけだった
だから亡骸もドロドロだ
モヤはわたしに訊いた
「過保護な親と、その子供と、どっちが悪いの?」
「どっちも」