第270話 ドラムロール抹茶ロール

文字数 1,457文字

 ゲンムのドラムを久しぶりに聴くことができる

 けれどもバンドでじゃないんだ

 ユニットで

「おお キミがミコちゃんか」
「初めまして エンドーさん」

 場所は親水公園の運河に面した屋外ステージ

 エンドーさんはゲンムの高校の吹奏楽部の部長
さん

 手話ができる

 そしてサックスが吹ける

『エンドー 甘っちょろい演奏したら全部わたしのドラムソロで潰してやるからな』
「ふ わたしの方こそお前のドラムを‘あ いたの’みたいな感じで音圧の彼方に追いやってやる」

 ユニット名は ‘エンゲン’

 安直だけど肚に響くよね

 でもお客さん少ないなあ…

「ミコちゃん まあ気にしない気にしない 今日は県内のどんな有名バンドでも全員前座だから」

 そう
 それほどに今日のイベントの目玉バンドはすごいらしい

 4Live って書いて フォー・リヴ っていう4ピースバンド

 やっぱりインディーズで現役高校生なんだけどもう毎週末ごとに全国各地のライブハウスをツアーみたいにしてひっぱりだこのバンドでゲンムもその子らのことはすごく気に入ってるみたい

 ‘前座’の何巡目か ゲンムとエンドーさんの出番だ

「こんばんは エンゲンです わたしがエンドーでこいつがゲンム ゲンムは無口だけどドラムはすげえから乞うご期待」

 うわ

 なんかエンドーさんのMCかっこいいな

 と思うまにゲンムがハイハットで二音分カウントをとったとおもったら

 いきなり最大音圧

 ガンズ・アンド・ローゼズの ’You are crazy‘

 このリフってサックスで吹けるんだ!

 わたしはエンドーさんの頬に一瞬で目が惹きつけられる

 ああそうか って納得したよ

 エンドーさんの頬はリフの一音一音の速さよりも遥かに速い膨張収縮を繰り返してて
 年頃の女の子だから頬の緩みを機にするかとおもいきやまったく遠慮会釈ない体の酷使のしようで

 色ごとを完全に超越した色香を感じるよ

 ゲンムもすごい

 パートナーがサックスでマイクで音を拾っいるわけじゃない生音だけの音圧なのに さっきの言葉通り本気で最大最高の打撃位置からスネアを撃ち込みハイハットの高さも異常値だよ

 こういう音を描写する’語彙‘ を教えてくれたのはゲンムの手話


 ゲンムの手話があんなに語彙力があるのは語威力 つまりドラムロールの激しさにも似た言葉そのものの威力と音圧が極まりないほど強いからなんだ って

 よく考えたらステージに立つゲンムは初めてみたけど

 シャムがこのひとの相棒だった意味がよくわかる

 あれ?

『もっといけるぞ!』

 ゲンムは当然いま手話ができないからこれはアイコンタクト

 けどエンドーさんは観ていない

「『エンドーさん ゲンムはもっといけるって!』」

 わたしが手話で観客席からエンドーさんに伝えてみたけどエンドーサンは ふ って笑ったまま意向を採用してくれない

 ああ そうか

 エンドーさんとわたしとでゲンムにアイコンタクトした

『『声出してみろ!!』』

「ウィ!クェ・ズォ!!!!」

 吃音はどもりじゃない

 キツオンは感情がこもりすぎて溢れくる激情

 もっとも’キツい‘ 言語表現なんだよ!!!!



 ふたりの演奏が終わると演奏に倍した拍手喝采だった

 たったこれだけの人数なのに大地に裂け落ちそうな音圧の拍手と指笛と’ブラボー!!‘の大合唱

 そうして前座バンドたちが演奏を終えてもう街が暗くなって有明の月から夜空の月に変わったところで4Liveがステージに立った

「み・みなさん こここんばんは」

 わたしはヴォーカル・ギターのその男の子の第一声だけで

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