第168話 カルト・オカルト・ア・ラ・カルト
文字数 1,259文字
第五十七番札所 府頭山 無量寿院 栄福寺
第五十八番札所 作礼山 千光院 仙遊寺
第五十九番札所 金光山 最勝院 国分寺
ご加護だろうか、三ヶ寺を神速で参拝させていただいた
そうする内にモヤとわたしとでひとつの結論に達した
「あの修験者は、カルトかもしれない」
心当たりはある
これも過去世の話
わたしはあるカルト教団と戦ったことがある
恩人の歌を背にして
「勝ったの?」
「負けた。殺されたよ」
「えっ」
そう
わたしは殺された経験が何度かある
戦争で敵に殺されたことや、森林火災の中に置き去りにされて死んだことや、高齢ドライバーが紅葉マークを貼って運転するスピード違反の車に煽られて対向車線をはみ出して事故に遭った時など
あとはそのカルト教団の研究者が調合した
生物兵器で殺された
「その時の研究者の生まれ変わりかもしれないね。当時は研究者は男だったけど」
「どうして殺された側のシャムが恨まれなきゃならないの?それに、生物兵器ってなに?」
「百足」
あの研究者は、毒素を10万倍に濃縮して生成できるムカデを交配によって執拗な時間をかけて作り出し、わたしのアパートに放った
百匹
「仏教の経典の中には火宅のさまを表現するために狗や蟲やクーバンダが家の中をうごめいているっていう表現をするけれども、その研究者は夜中、わたしがカルトどもと闘うために家族と離れて潜んでいたそのアパートを暴き出して、木造の古いアパートだったから屋内扉の薄いガラスを割って、夜中にムカデを放った。なんのことはないよ、ただ投げ入れただけ」
モヤの艶やかな肌にじんましんができ始めている
「それでわたしは迂闊にも浅めの眠りに入っていたから、最初は何が起こったのかわからなくて、布団の中で、キシキシキシって音がするのを手のひらで払ってしまった。一気に5匹払った瞬間に手の皮膚が破けたよ。それぐらい強力な毒を作れる個体にあの執拗で気の触れた、けれどもIQだけ無駄に高い研究者は、わたしがその後、ほお、にのうで、あしのこう、しり、ふともも…そして」
「シャ、シャム」
「うん」
「もうやめて」
ひぶにも、キ・キ・キ・キ、って毒と固い無数のアシでもってめりこんできたそのムカデたちの描写を、わたしはココロの中に飲み込んだ
「あの研究者がわたしと同じように過去世の記憶をそっくりそのまま持ってるんなら話が合ってくるよ。どうしてこれまでの数世代にわたって何もしてこなかったのか、今になってしてきたのかはわからないけど」
かわいそうにモヤはその想像した様子のおぞましさとわたしへの慈しみとから、泣いてる
かわいそうに
「…シャム…どうしてそんな酷い目に遭ったシャムをその張本人の研究者が恨む筋合いがあるの?」
「わたしが捨てなかったからだよ」
「…?」
「ムカデに犯されるみたいにして殺されるその絶命の瞬間まで、お六字を」
「ああっ!」
モヤは号泣した
泣いて泣いて泣いて
泣きに泣き抜いてくれた
ありがとう
嬉しいよ
「モヤ」
「うん…」
「もう、泣かないで」
「うん…………」
…………………………
第五十八番札所 作礼山 千光院 仙遊寺
第五十九番札所 金光山 最勝院 国分寺
ご加護だろうか、三ヶ寺を神速で参拝させていただいた
そうする内にモヤとわたしとでひとつの結論に達した
「あの修験者は、カルトかもしれない」
心当たりはある
これも過去世の話
わたしはあるカルト教団と戦ったことがある
恩人の歌を背にして
「勝ったの?」
「負けた。殺されたよ」
「えっ」
そう
わたしは殺された経験が何度かある
戦争で敵に殺されたことや、森林火災の中に置き去りにされて死んだことや、高齢ドライバーが紅葉マークを貼って運転するスピード違反の車に煽られて対向車線をはみ出して事故に遭った時など
あとはそのカルト教団の研究者が調合した
生物兵器で殺された
「その時の研究者の生まれ変わりかもしれないね。当時は研究者は男だったけど」
「どうして殺された側のシャムが恨まれなきゃならないの?それに、生物兵器ってなに?」
「百足」
あの研究者は、毒素を10万倍に濃縮して生成できるムカデを交配によって執拗な時間をかけて作り出し、わたしのアパートに放った
百匹
「仏教の経典の中には火宅のさまを表現するために狗や蟲やクーバンダが家の中をうごめいているっていう表現をするけれども、その研究者は夜中、わたしがカルトどもと闘うために家族と離れて潜んでいたそのアパートを暴き出して、木造の古いアパートだったから屋内扉の薄いガラスを割って、夜中にムカデを放った。なんのことはないよ、ただ投げ入れただけ」
モヤの艶やかな肌にじんましんができ始めている
「それでわたしは迂闊にも浅めの眠りに入っていたから、最初は何が起こったのかわからなくて、布団の中で、キシキシキシって音がするのを手のひらで払ってしまった。一気に5匹払った瞬間に手の皮膚が破けたよ。それぐらい強力な毒を作れる個体にあの執拗で気の触れた、けれどもIQだけ無駄に高い研究者は、わたしがその後、ほお、にのうで、あしのこう、しり、ふともも…そして」
「シャ、シャム」
「うん」
「もうやめて」
ひぶにも、キ・キ・キ・キ、って毒と固い無数のアシでもってめりこんできたそのムカデたちの描写を、わたしはココロの中に飲み込んだ
「あの研究者がわたしと同じように過去世の記憶をそっくりそのまま持ってるんなら話が合ってくるよ。どうしてこれまでの数世代にわたって何もしてこなかったのか、今になってしてきたのかはわからないけど」
かわいそうにモヤはその想像した様子のおぞましさとわたしへの慈しみとから、泣いてる
かわいそうに
「…シャム…どうしてそんな酷い目に遭ったシャムをその張本人の研究者が恨む筋合いがあるの?」
「わたしが捨てなかったからだよ」
「…?」
「ムカデに犯されるみたいにして殺されるその絶命の瞬間まで、お六字を」
「ああっ!」
モヤは号泣した
泣いて泣いて泣いて
泣きに泣き抜いてくれた
ありがとう
嬉しいよ
「モヤ」
「うん…」
「もう、泣かないで」
「うん…………」
…………………………