第190話 カルト≒インフルエンサー

文字数 1,702文字

 現代の教祖はインフルエンサー

 しかも辛酸も修行もいらない

『多様性が大事』と歌い

 辛い現実に対しては

『離れることも大事』とつぶやく

 フィジカルトレーニングを称賛するかと思えばうつ病の人間に突然シンパシーを魅せる

 よくよくよくよく読んでみても

 やっぱり何者に対しても責任を負わない

 追わない

 追われるだけ

 フォローせず

 フォローされたいだけ

「シャムが言ってた話、ミコは意識ある?」
「なんの話?」
「ゲンム」

 詳細はゲンムからミコに説明してもらったほうがシャムに関しての情報量の多さからわたしはまだまだゲンムには到底かなわないからたのんだけど、ゲンムのミコに対する説明の手話はスピードを増す

 こんな話だったんだ

 分かりやすくするために、シャム主観に戻して話すよ

・・・・・・・・・・・・・・

 わたしたちが家族で大姑の13回忌の法要をしたあとで檀家のお寺さんから家に戻った時、玄関に女性がひとり立っていた

「こんにちは」
「はい」
「神の話を聞きませんか?」
「はい?」

 わたしは礼服を着ている

 手にはお供えした御膳のお下がりを、漆塗りのその御膳のまま持っている

 なのにそれを見てなお

「私どもの神の話を聞きませんか?」

 わたしは思わず言ったよ

「あなたのお家は代々『その神様』しか観えていなかったんですか?」
「?いえ?ワタクシの親や祖父母は全員浄土宗を守ってきたらしいですが」
「ならあなたは何?」
「何、というと?」
「先祖が守ってきた氏神さま、八百万の神さまやお阿弥陀さまでなくて どうして『その神様』をフォローするよう勧めるんですか?」
「それが真実だからです」
「どうしてですか?」
「どうしてもです」
「ならばわたしはあなたにこう言わなくてはなりません」
「なんですか?」

 あわれ口を覆わぬの

 栓も蓋をも締めおかぬ

 自由多様の教祖さま

 ほんとのことを言わぬまま

 こちらが自由と言い張るの

 なさけないこと極地には

 生家におわす親父さま

 『宗教こわいものだよ』と

 誰かに吹かれ吹き込まれ

 何もしないで暮らす道

 手にして暮らす暁は

 何もしないの義務のこと

 自分のやりたいその道は

 無理やり理由をつなげつつ

 言いたいことではないけれど

 インフルエンサーその実は

 カルトの教祖と大差なし

 ここまで強く嘆くには

 教祖でなくともわが国の

 よきものすべて壊しゆく

 ためしに列挙してみよか

 我が国失い果てたもの

 ひとつ人の世むつまじく

 ふたつふた親からの訓

 みっつ未来を想う常

 よっつ頭を垂れる謙

 いつつならぬかんにんを

 むっつむりやりしない功

 ななつなんでも打ち明けて

 やっつやさしく諭す譲

 ここのつ弘法大師さま

 とおはとうとう世も終わり

「大袈裟ですよ」
「後生のことは一大事」
「ならば神の話を」
「あなたの経では救われぬ」

 顔色が変わった

 実家の父親が『宗教とは怖いもんでな』と誰かの受け売りで言っていたとしかおもえないその言動を今やこうして目の前にて異なる経へと引きずる女性が

 顔色を変えて

「侮辱罪だ!訴訟してやる!」

 声の振動はビビり

 弛緩した肉体は突然アスリートが瞬発力を出す際のような一瞬のパワー注入がなされて

 さらにわたしにひと怒鳴り

「後ろ指差されるぞ!」

 どういうことだろう?

 現実にわたしの国の祖先が積み重ねたよきものをひきつぐために法要をなしてきたわたしが

 このひとに脅される

・・・・・・・・・・・・・・

「ゲンム シャムは、実際にカルトと戦ったの?」
「『ああ でもカルトって宗教だけのことじゃない』あ、そうなんだ」
「宗教だけじゃない?」
「『舅姑を捨てること それがカルト』」
「はっ」
「『実家の両親の介護を放棄すること それがカルト』」
「うむぅ」
「『強気をくじき弱気を助くという王道から外れて弱い者いじめの外道に陥ること それがカルト』」
「うん…うん…」
「『大宇宙を統べるのが大日如来さまであることを完全に無視して月を開発しようと企むこと 小賢しく宇宙の起源に近づいたと自分を神のように崇めさせようと企む研究者たち すべてこれ皆…』」

カルト

そうしてそれをインフルエンサーする

だからニアリィ・イコールなんだ

カルト≒インフルエンサーなんだ
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み