第237話 どんぐりぐりぐり

文字数 1,791文字

 ゲンムがわたしの保護者っぽい感じで付き添ってくれた

「『保護者っぽいじゃなく保護者だろ』いやいや ゲンム家においてはわたしもゲンムもお子さまだから」

 わたしの通う幼稚園のヤモリ組が地元の神社の‘どんぐり祭り’に参加したんだよね

 一応わたしもシャムの過去世が注入されてるからとはいえ5歳で年長園児だから同じ組の子たちとは幼児らしい付き合いをする

「カレンちゃんはどんぐりって観たことある?」
「うん おばあちゃんとお父さんとお母さんとでハイキングに行った時にいっぱい落ちてたよ」
「クマはいなかった? だってさっき木を育てる先生が どんぐりはクマの餌になりますっておっしゃってたから」
「いたよ」
「え」
「黒くてブンブン飛んでた」
「『クマバチだな』ああ あの大きいハチだよね」
「そうそう でもクマバチはかわいい顔してたよ」

 宮司さまがどんぐりをお祓いしてくれた

 そのお祓いしてくれたどんぐりを耕してくださってたお土にねえ 割り箸で ぽこ って穴を開けてそこに埋めるんだ

 そカレンちゃんのおばあちゃんが今日はカレンちゃんの付き添いだったよ

 おばあちゃんはいくつぐらいだろうね

「カレンちゃん どんぐり早く芽が出るといいねえ」
「うん おばあちゃん わたしまた観に来たいよ」
「ほほ わかったよ じゃあ何度もお参りに来てその時に芽が出てるか観てみようか」
「うん」
「『ミコも一緒にお参りに来てやってもいいぞ』いいよ ゲンムだって用事が色々あるだろうし『いや わたしが確認したいんだよ』」

 木や緑はとても大切 って宮司さまもお宮の木々をお世話しておられる先生もとてもわかりやすく教えてくれた

 それからね カレンちゃんのおばあちゃんはこんなことも教えてくれた

「ミコちゃん カレンちゃん 木も草もね 風にたなびくでしょう」
「「うん」」
「その風は神さまが吹かせてる風なのよ だからその風に逆らわずにゆらゆらと吹かれて揺れる木も草もね 神様のおココロにとっても素直なのよ」
「『ミコ』なに?『おばあちゃんなかなかいいこと言うじゃないか』そりゃあカレンちゃんのおばあちゃんだからね」

 そうしてみてたらねえ なんだかまるで今の今までそこにいたんじゃないかってごく自然に当たり前のように歩いてる人がいたよ

「あ! カラス!」

 しかも三羽

 さらに面白いことにその三羽ともがね おんなじ方向を向いて人間みたいに大股で地面の上を歩いてる

「わ! 食べてるよ!」
「わー せっかく埋めたのにー!」

 どうやら土がしっかりかぶってなかったどんぐりを狙ってつついているみたい

 ひょい ってどんぐりをくちばしの先でつまんだら ア゛ッ ア゛ッ って感じで嘴の真ん中らへんまで動かしてきてそれで食べるみたい

 宮司さまがにこにこしながら袴姿でおいでたよ

「いいんです 大丈夫ですよ 全部食べたりはしませんから それにね このどんぐりは神様から頂いたものですからね カラスの分でいいんですよ」
「神さまがくれたんですか?」
「はい そうですよ 草や木は生き物のためにその身を捧げてそうして生き物が飢えないように神さまが与えてくださったんです ですから今ついばんでいるのはカラスに神さまが与えた分なのでしょうね」
「そっか…じゃあカラスが生きていくために貰った分なんですね」

 宮司さまがにっこりなさったその上で アー アー って鳴き声がしてヤモリ組のみんなは一斉に空を見上げた

「あ なんか落とした!」

 飛んでいたカラスがクチバシを ぱかっ て開けたら何か先についた小枝が落ちてきた

「わあ 宮司さま これなんですか?」

 ちょうど宮司さまの足元に枝つきの赤いつぷつぷしたかわいらしい実が落ちていた

「宮司さま これはなんの実ですか?」
「はは ヤマボウシの実ですね」

 わたしだけじゃなくヤモリ組のみんなも観たことのないその表面はイチゴっぽい丸くて赤い実の枝を拾い上げた宮司さまの手元を一生懸命観る

「宮司さま カラスは間違って落としちゃったんですか?」
「さあ ひょっとしたら自分が与えていただいた実の内一個だけ 神さまにお供えするつもりで落としていったのかもしれませんよ」

 三羽のカラスもつつましくひとつふたつだけどんぐりをついばんでそのまま とっとっとっ とやっぱり人間みたいな足取りで鳥居の方に歩いて行くのを見送ってゲンムがつぶやいた

「『カラスって意外といい奴らだな』」
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