第197話 閻魔さまの前で、嘘をつけますか

文字数 1,158文字

 第八十三番札所 神毫山 大宝院 一宮寺

 地獄の釜があった

 シャムの恩人がこう言ってたっていう

「子孫が、ふいっ、と神仏に報謝することで先祖が地獄の釜の淵から、すいっ、っと成仏できる時がある」



 ゲンムがミコに向かって高速の手話をする

「うっ…『テロリストや通り魔や汚職の政治家たちは閻魔さまからどんなお裁きを受けるんだろうか』…ゲンム、あまりにも難しい課題だよ、それは」

 もはやわたしはミコのことを5歳の女子とは観ていない

 シャムに対するのと同様の尊敬と憧れと…それから慈しみを…持ってミコに接するよ

 けれどもこのゲンムの疑問は根源的だ

 果たしてそんなことに対する答えを出すことができるんだろうか

 いや、神か君主のフリをしてやってるそういうことが大好きなひとたちはいるからね

 でも、そのひとが、ほんとうに閻魔さまの前に出たときに

 どういう状態になるんだろうか

 
「あっ…」
「?どうした?ミコ?」
「シャムになるみたい、わたし」

 はあっ、とわたしが漏らした吐息は、けれども恩人だけでなく、あまりにも苦しみが強くて、恩人が法然上人の御法話を自身の歌と合わせて示してくれたことから、法然上人とのご縁もできた

以下、「元祖源空上人御法話」から抜粋

・・・・・・・・・・・・

 神というも仏というも一骨分身にして別あるにあらず
 衆生済度のために仏と神と現れ現世には人間の長久を守り給う
 これによって日本を神国と申すこともこのいわれなり
 これほどに守り給う念仏ををなどか申さんや
 南無阿弥陀仏と申す功徳は東西南北を入れ物にして七宝をつみおき楽しむがごとし


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 そしてこうもある


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 悪逆の神乱れ入るとも念仏申すところに来らず


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「「『ああっ!』」」

 わたしたちは驚愕した

「只今現在の危機を、既にして説いておられたかっ!」

 感嘆のほかはない

 そして時ここに至って

 シャムとミコが完全に一骨となった

「ゲンム モヤ 行こうか」

 容姿は5歳の女児であるのに

 その反るぐらい真っ直ぐな背筋と

 腰の付け根からすぐに生えているようなほぼ起伏なく細いただまっすぐの

 まさにハグロトンボ、通称‘神様トンボ’のその細い藁のような繊細な尻尾のように、脚と足とつま先と足指とその先にいくほど色素が強くなるためにピンクとなる形よい指に、ちょう、と乗った小さな爪は、何も施していないのにまるで透明なペディキュアでコーティングしたような光沢を観せつけていた

 観せつける

 誰に

 もちろんきまってる

 悪逆の神のくせに、善神を気取るすべての者どもにさ

 そうしてミコ=シャムはその更に困難なことには

 悪逆の神≒我欲と虚言の亡者どもをさ

 済度=救わなくちゃいけないんだよね
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