第210話 身魂磨き

文字数 1,058文字

 シャムの恩人がことあるごとにこう言ったんだって

『損な方を探してまわりなさい』

 そうしてシャム自身もこういう言葉に出遭った

「水が高きから低きに流れるごとくに」
「ミコ それってこういう風に言い換えられるのかい?『実るほど首を垂れる稲穂かな』」
「モヤ わたしも最初そう思った でも少しニュアンスが違うんじゃないかって 『両方組み合わせたら答えだろ』そうそう!ゲンムさすが!わたしもそうだろうと思う」
「ああ…なるほど 実は損な役回りほど多くの宝物が集まって来るっていうことか…」
「うん!そう!モヤもさすが!」
「いやヨイショはいいから」
「『成功したり運のいいことが優れた素晴らしいことだっていう風潮があるけど 実はその成功や運や将来からの前借りかもしれないな』って多分そう 将来というか子孫からの前借りだったらもう最悪だよね」

 借銭の棒引きというものは実はない

 債務免除などほんとうはあり得ないんだろうと思う

 たとえば現実世界で物理的に誰かから借銭している人間がもう生活も成り行かなくなって七分引きなどの方策で借銭の負担をおまけしてもらった場合

 後に生活に余裕ができた時は仮に法的にはもうその義務がなかったとしても少しでも返そうと誠意を見せるべきだろうと思う

 なぜならそれをやらないことによって 子孫の運を前借りしている 結果子孫は自分がなぜ不運な状態に陥っているのかの理由をまったく想像できないままあっという間に一生を鬱々と過ごしてしまいもはや活躍の場を挽回できない中年となりし時に 子孫の運を前借りして食い潰しながら老人のクセに今だに自己実現の輩である恥ずべき老爺とあるいは老婆となり果てる

「わたしたちができるのはそういう借銭を押し付けられた子孫たちにほんとうのことを伝えること」
「ほんとうのこととは…」

 モヤが目を閉じて心当たりがあるんだろうね 一息に自問自答の答えを吐き出してくれたよ

「運のいい人間は大したことない ほんとうに畏怖すべき大功徳をなしているのはニセモノの運の良さを拒否して人生の辛酸に浸りながらもそれでもなお『損な方を探して回りなさい』って生活そのものを『行』と化して功徳を積み重ねているひとたち そのひとたちに向かってわたしならばこういうよ」

 モヤもまた神性をいただく真性の日本人だったよ

「あなたの艱難辛苦のおかげでわたしは日々呼吸をし食物をいただき夜になれば安眠することができます あなたのそのならぬかんにんは誠の行 安心なさってドシドシ行ってください あなたのその大和魂の決断を」


 そのとおりだ
 
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