第189話 意識の振り替えをココロ待つ

文字数 1,858文字

 ヒロインの主観で進んでいた小説をわたしの主観で進めることがいつかはあるかもな、って青春の頃から読んできた小説の中でそう思ってた

 ら、こうなってる

 でもわたしは自覚してる

 シャムの恩人ですらその歌を書き下ろす時に

「愚かなわたしが筆を染め造りし歌であるけれど」

 と謙遜したと言ってた

 ところでわたしはシャムの恩人のセンスがすごいと思う

 歌をつくる、を、造る、と描写する

 けれどもこれはきわめて納得できる

 おそらく大和の国ができたその時の国をつくる、は、國を造る、だったのではないだろうか

 めいしん、と聴いたら普通‘迷信’を想像するだろうけど恩人の書いたのは、迷心、さらにそれを、めい心、と記載する

 凡夫は、ぼんぶ
 
 嬉しい、を、喜しい

 汽車も電車も自動車も

 ときて突然、

 山坂川も家倉も、とつながる

 さらに、親兄弟も子も孫も、と続いて

 夫も妻も友達も、と世を歌う

 
 恩人の感性が、もはや人間のそれでない

 シャムが過去世においてやっぱり異世界転生の軍門に降らなければならないのか、と迷って書いたその小説に、せめてもの抗いとして、『52段高の』という表現を用いた

 ごじゅうにだんたか、と読む

 それだけ位が高いということだ

 誰の?

 決まってるでしょ

「モヤ」
「なに、ミコ」
「いつからわたし、シャム、って名乗ればいいかな」
「ツマリミコ、あなたはシャムだった過去世を覚えてるってこと?」
「ううん ゲンムに遭うまでシャムなんて名前聴いたこともなかったよ」
「ゲンム?」
「『大家さんがシャムから聴いてたそうだ ちいさなおんなのこがねこみたいにすてられるからひろってあげて、って わたしの生まれ変わりになるよていだから』って ねえモヤ わたし、シャムになれるかな」
「ごめん 解釈できない」

 ゲンムのミコに対する手話がスピードを増す

「『モヤ なにごとかを成し遂げようとするとき、一代で貫徹できることは希だ シャムにとってのお遍路もそういうことだった 今世においてのな あまりにも意味が大きすぎて、現実にトンビやツバメたちと一緒に日本を救った いや、さらにいうと、隣国とその隣国も救った 両国の元首は、深い考えを持ったフリをしただけの浅瀬でちゃわちゃわ我が身かわいやの大馬鹿ものだったのだから』…ふう なんだかどんどん難しい話になってくね」

 わたしはシャムの恩人の描写にまた集中し始める

 シャムが強調してたのは恩人が主業務としていたのが『主婦』である、ってことだ

 主婦であり嫁であり野良仕事をするおばあさんであった、ってことだ

 いわば在家の星のような存在だった、ってことだ

 けれども彼女はまごうことなき

 52段高

 本来ならば百千万刧にも遭い奉ること難しの存在

 それに遭えた

 いや、正確にいうと、人間の身を持つ者同士としてはシャムは遭えてなかった

 恩人が亡くなってから半年経たぬうちに今世のシャムは生まれた

 命の繋がりということを思わずにはいられない

 ただ問題は、ミコが既に5歳の少女であり、シャムはつい先週亡くなったばかりだということだ

 もっとも、毛虫に変化してツバメに喰われた後核ミサイルを滅ぼして爆死しました、などという説明が通用する世の中ではないからシャムは失踪した、という言い訳を警察にはしている

 
「ミコは平気なのかい?違う人格と入れ替わるってことが」
「じんかくなんてようちえんじにつかわないで」
「急に、なに…?」

 ほんとだよミコ

 急に幼女のフリして…あっ…!

「ミコ!シャムの、シャムの恩人の名前は!?」
「・・・・・・・だよ」

 ・・・・・・・か!

 やっぱり!

「ミコ!おねがいだ!」
「なに」
「わたしを済度してほしい!」

 偈をもってミコは答えた

 済度できるのは我にあらず

 南無八幡大菩薩

 南無不動明王

 南無観世音菩薩

 モヤよモヤモヤ

 そなたのカンで買うことなかれ

 済度できるのはカラダがニクタイのプリミティブさをもつごとくにざくばらんな会話しこうけんうえた

 ほんとうのことを体に染み込ませ、ミコに言った

「ミコ」

 もう誰もわたしの話を聴いていない

  必要な時に計算も睡眠も ヒグラシも

 真夏のお日さまも

 
 聴くのとも語るのとも違う

 やるのみ

 ただやるのみ

 これはわたしの私的な感情も混じってるけれども、

 実行が肝心

 これはできてあれはできないということではなく

 全て洗う洗濯機のように

 創作が、創作が

 ううん、違った

 作り師院を自分の衝動を受け止めてくださることをわかり…危ないネコたちよりも特にそれ以上は危機に瀕するから

 ミコ、期待してる
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