第269話 うさぎもいたよ!

文字数 1,575文字

 ゲンムが高校から帰ってきてわたしに焦らしに焦らしながらこう言った

『どうしようかなー 教えようかなー』
「早く教えた方が身のためだよ」

 わたしは決して脅すわけじゃない

 威嚇してるんだ

 脅すのと威嚇は似てるようで違う

 脅すのは自分の意向を相手に呑ませる行為で

 威嚇は弱い自分の身を守るという最低限の目的があるから

『うさぎがいたよ』
「え?」

 なんと

 捨てうさぎが実在した!

「どういう状況?」
『同じクラスの子なんだけどねこを散歩させてたんだって』
「ねこを?」
『ミコ 今時ねこを散歩させるのはごく日常だよ ちゃんとリードも使ってね』
「へえ それで?」
『そのねこがね ほら この間大雪だっただろう? それで雪が積もったらアレが目に入るだろう?』
「アレ ってなに?」
『ほら アレだよ』
「あ…ああ ああ アレね!」
『そうそう ソレ だよ』
「うんうん ソレ ね?」

 実はわたしはなんのことだかさっぱりだったからゲンムに降参して聴いたら交差点なんかに設置させてる‘寒いですから除雪作業で身体を温めましょう!’っていう看板と一緒に置かれている除雪用のスコップのことだった

「そのスコップがどうしたの…あ! ここ掘れにゃんにゃん!?」
『えらくかわいい発想ありがとう まあ当たらずも遠からずかな…そのスコップの下になあダンボール箱があるのをねこが観つけたんだそうだ』
「へえ…小判? 現代通貨?」
『ファンタジーのない奴だなあ』

 ゲンムはわたしが‘掘る’ジェスチャーをするのを観て そりゃスコップじゃないツルハシのモーションだってツッコミを手話で入れてくれたけどねこはまあその場所でにゃんにゃん鳴いたそうな

『ミコ 語り口が日本昔ばなし風になってるぞ』
「もうそれはいいから そのねこが観つけたファンタジーってなに?」
『子うさぎだよ』
「えっ!? あのよく見かけるピンクの親指ぐらいのちっこいやつ?」
『そこまで小さくはない しかもそんな生まれたてのウサギなんてめったにみないだろう 生後しばらくしてそれなりに大きい…そうだな…手のひらに乗る雪うさぎぐらいの大きさかな』
「わ! かわいい!」
『ところがな かわいくなかったんだそうな』
「ゲンムこそ昔話風になってるよ しかもみにくいアヒルの子的な西洋の物語風な」
『話が進まないからあんまり変なチャチャいれるなよ でね そのちっこい子うさぎは白うさぎなんだけどな もう交差点を通る車の水はねやらなんやらでかなり黒っぽく煤けてボロボロだったらしい やせてるしな』
「そうなんだ…ということはそのダンボール箱に入ってたのが捨てうさぎってことなんだね」
『うん だからさ この間初詣に行った時に寄った喫茶店のマスターが言ってた捨てうさぎの実例は結構あるかもしれないなと思ってな』
「そっか じゃあそのクラスの子が拾って飼ってあげたんだね いい子だね ゲンムはその子と仲いいの?」
『うん…ま・まあまあかな』

 ん?

「…ゲンムなんか様子がヘン」
『へ 変なことなんかないぞ! な・仲良くしたいと思ってるだけだ』

 ははーん

「ゲンム その子って男子でしょ」
『し・知らん知らん!』
「なに性別の質問に対するその答え」
『と・とにかく!ただ捨てウサギが問題になってるってことなんだろ!?』

 調べてみたらほんとに捨てうさぎの殺処分は問題になっているらしくて

 よくよく考えてみると ねこは都会のアスファルトの上でも生きる術があるかもしれないけど

 うさぎが食べる草も生えてないアスファルトに捨てられて生き抜く光景は想像できない

「捨てる神あれば拾う神あり だね」
『ん?』

 そうだよ

 そうなんだよ

 苦しんでるうさぎに更に追い討ちかける兄神もあれば

 かわいそうにと救いなさる弟神もある

 因幡の白兎の大国主命さまのようにね

 ということは

 ゲンムはそういうひとに惹かれてるってことか

 めでたい!
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