第224話 ホンモノの忠臣の見分け方

文字数 1,212文字

「ねえモヤ」
「んー」
「どうやったら戦争をなくせるかな」

 わたしはギャランの助手席でモヤがヒールでアクセルワークをする長くて曲線のゆるやかな直線に近い脚を観つめながら19歳にして先達ドライバーである彼女に訊いた

 モヤの答えは明確だった

「戦争したい奴が戦争をしたいという気持ちにならないような人生を送らせてやればいい」

 世はニセモノの武士で溢れかえっている

 世はニセモノの憂国の士で溢れかえっている

 世はニセモノの忠臣で溢れかえっている

 ホンモノならば

 人間よりも神様の言うことをきくはずだよ

「『君は神の心と一骨だからな』ほんとにそうだねゲンム」


 厳しさの裏には優しさがあり

 優しさの裏には厳しさがある

 今更、って思うよ

 そんなの戦争以前の問題でさ

「わたしはこう思うんだ いじめを根絶する方法はいじめる側がいじめをやめればいいだけ 戦争を根絶する方法は侵略を仕掛けた側が戦争をやめればいいだけ ただ唯一問題なのは」

 そう

「今更いじめをしたり我欲で戦争を引き起こした人間をさあ改心したから全部水に流して許せるかってことだよね」

 実はこれが究極の‘ならぬかんにん’だと思うよ

 わたしもできれば言いたくなかった

 永遠に相手が悪のままでいてくれた方がわたし自身もスッキリするから

 相手をわるものにしたままでいられるから

 納得はできないだろうと思う

 ほんとにいまさらだもん

 でもそれをやり切れたならば そのときこそホンモノの忠臣に、憂国の士に、武士になりきれるんだろう

「武装したいのならすればいい 神様のやり方には銃器はないだろうけどね ただね」

 そこまで言ってモヤは下の前歯で上唇を突き刺すようにして言った

「あなたは世に出なくてもよいから誰からも褒められない仕事を見下さないで 家事育児介護 目立つ世に出ることはしなくてよいからお願いだからまずそちらから先にやって そうして世に出られず落ちぶれている人の心情を骨身に感じた上で自己満足じゃない人助けをやってみて?」

 ゲンムが言った

「『彼等には無理だろう そもそも選挙が機能してないんだから 機能しないでいくら人間が人間を選んだとてどうにもなんないだろう? 機能しない選挙で選ばれた人間なら結局そういう人間ばかりになったところでどうにもならん」

 モヤも言った

「ホンモノの忠臣ならば和気清麻呂公のように、悪僧たちの脅しにも賄賂にもまったく動じずに外野の我利我利亡者をなだめることが呼吸のようにブレずに居できるだよきっと できないひとたちはホンモノの政治家でも」

 ホンモノの忠臣は静かで、下働きの労も厭わず世に出ずともなすべきことをなすだろうね

 どんなに官位あろうともどんなに自分は世の酸いも甘いも知ってるってそぶりを観せても

 決して騙されてはいけない

 ほんとうに世の順序を守り

 ということは自分はあくまでも臣下であることをきちんと理解して生きている人間でないと、却って邪魔になるだけだろうね
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