第260話 こちふかば
文字数 977文字
東風吹かば
匂ひおこせよ梅の花
あるじなしとて
春を忘るな
「お父さん この天神様 すごくいいお顔」
「ミコちゃんはそう思うかい?」
これはゲンムのお父さんが生まれた時に誕生のお祝いとしておじいちゃんおばあちゃんから贈られた木彫りの天神様の坐像
お正月にはお出ましいただいて今でもゲンムのお父さんがお給仕なさるよ
わたしとは異なる見解をお父さんはなさったよ
「僕には深い寂しさが観えるよね」
菅原道真公は諫言により政敵から陥れられて左遷されなさった
今の左遷とはまた意味合いが異なって
現実に今生の別れとなりなさった
『父さん 天神さまはどんなお気持ちだったんだろう』
「そうだな…ゲンムはこの間どうにもならない寂しいような悔しいような気持ちになったろう」
あ
ゲンムが学校で何かあって わたしに とっ て額をくっつけて来た時のことだ
『なったけど…でもわたしのその気持ちからは推し量れないほどの嘆きだったんじゃないかな』
「いや 僕はそうは思わないな」
おとうさんは正座の居住いを正しなさってね
「世に落ちるひとたちは皆天神さまに同情しているだろう 同情っていうことばはともすれば高い方から低い方を見下げるような意味合いがあるって言いがかりをつけるひとがいるけどそんなことはないと思う」
「お父さん じゃあ今の時代になかなか芽が出ず成功しないひとたちと同じ気持ち?」
「ミコちゃん 僕はそう思うな もっというと成功とか出世とか失脚とかそういうことともちがう もっと根っこのことだよ」
根っこ
「僕は天神さまのおココロは たとえば震災で亡くなった方たちのことがわかるような そういうおココロだったと思うよ」
『父さん』
「ゲンムもきっとわかってくれると思う そうしてとても大切なことは 天神さまが身をもってそのご苦労をお受けなさりほんとうに苦労に苦労を重ねられたことだと思うんだ」
まことの学問とは
先賢の尊き行いを現実世界において学び よきことと悟れば即座にほんとうにそれを実行することである
阿呆といわれようと
気ちがいと謗られようと
まことのこころと言葉と行いを自分の身体と魂をもって 熱し寒しに飛び込んで その真実のコトを拾うことである
だからお父さんは歌ったよ
自分のまことひとつで
省みず
顧みられず 落つる実の
根も芽も天晴れ
伸びに伸びゆく
(ゲンム父詠む)
匂ひおこせよ梅の花
あるじなしとて
春を忘るな
「お父さん この天神様 すごくいいお顔」
「ミコちゃんはそう思うかい?」
これはゲンムのお父さんが生まれた時に誕生のお祝いとしておじいちゃんおばあちゃんから贈られた木彫りの天神様の坐像
お正月にはお出ましいただいて今でもゲンムのお父さんがお給仕なさるよ
わたしとは異なる見解をお父さんはなさったよ
「僕には深い寂しさが観えるよね」
菅原道真公は諫言により政敵から陥れられて左遷されなさった
今の左遷とはまた意味合いが異なって
現実に今生の別れとなりなさった
『父さん 天神さまはどんなお気持ちだったんだろう』
「そうだな…ゲンムはこの間どうにもならない寂しいような悔しいような気持ちになったろう」
あ
ゲンムが学校で何かあって わたしに とっ て額をくっつけて来た時のことだ
『なったけど…でもわたしのその気持ちからは推し量れないほどの嘆きだったんじゃないかな』
「いや 僕はそうは思わないな」
おとうさんは正座の居住いを正しなさってね
「世に落ちるひとたちは皆天神さまに同情しているだろう 同情っていうことばはともすれば高い方から低い方を見下げるような意味合いがあるって言いがかりをつけるひとがいるけどそんなことはないと思う」
「お父さん じゃあ今の時代になかなか芽が出ず成功しないひとたちと同じ気持ち?」
「ミコちゃん 僕はそう思うな もっというと成功とか出世とか失脚とかそういうことともちがう もっと根っこのことだよ」
根っこ
「僕は天神さまのおココロは たとえば震災で亡くなった方たちのことがわかるような そういうおココロだったと思うよ」
『父さん』
「ゲンムもきっとわかってくれると思う そうしてとても大切なことは 天神さまが身をもってそのご苦労をお受けなさりほんとうに苦労に苦労を重ねられたことだと思うんだ」
まことの学問とは
先賢の尊き行いを現実世界において学び よきことと悟れば即座にほんとうにそれを実行することである
阿呆といわれようと
気ちがいと謗られようと
まことのこころと言葉と行いを自分の身体と魂をもって 熱し寒しに飛び込んで その真実のコトを拾うことである
だからお父さんは歌ったよ
自分のまことひとつで
省みず
顧みられず 落つる実の
根も芽も天晴れ
伸びに伸びゆく
(ゲンム父詠む)