第271話 当事者たる答辞
文字数 1,635文字
第三者委員会ってのがいじめや犯罪被害の実態を究明し救済策へとつなげるっていうのが建前だけど
タテマエの世は済んだよ
「ゲンム 行こうか」
『ああ 行くか』
今日は裁判の傍聴だよ
「では第一回の口頭弁論を行います 被告人弁護人は前へ」
促されて被告人の弁護人が歩みを進めた
女性弁護士だね
被告人本人はね
性別:男
年齢:17歳
罪状:暴行殺人
ふたり殺した
ひとりは成人女性
ひとりはその娘
燃やし尽くすような目で原告席で膝の上の拳を握っている男性の妻と娘をこの被告人は殺した
暴行したうえで
『ミコ 暴行の意味ってわかるか』
「うんわかるよ」
わたしは5歳だけどわからなくていいなんてことはないのであって
わからなければわかるように調べることがこの国ではできるのであって
ならば燃やし尽くすような目で観ているその男の人のわかりたいこともわかるように調べてあげないと
だからわたしはここに来た
「…以上のように被告人は事件当時、正常な判断能力を有しておらず、また未成年であり十分更生の余地を残すと考えられるものです」
「原告側弁護人 意見はありますか」
弁護士でなくその男の人が立ち上がった
「裁判なんかどうでもいい!私が今この場でちづるとレイサの仇を討つ!」
手に持っているのはペーパーナイフ
けれども目に突き立てることができれば致命にできると思う
当たり前のように取り押さえにかかる裁判所の職員たち そしてあっというまにはがいじめにされた
わたしはいまこそ時節到来したのだと5歳だろうがなんだろうがあらん限りのアドレナリンを出し尽くして怒鳴った
「コンドーム!」
ただ一声でその物体がわたしの言い間違えでないことを知らしめることができたとおもう
わたしはまだつづける
こわいけど
被告人の目をにらみつけて
「右ポケット!」
「な、ななななななに言ってんだよ」
反応あり
「右のヒップポケット!」
「こここここいつ、気が狂ってる。早く連れ出してくれよ!」
ばかだねえ
5歳のわたしをまともにこわがってるよ
お母さんの方を殺した時とおんなじでさ!
「薄さは・・・一番厚いやつ!」
「うおぃっ!」
奇声を上げて被告人の17歳がわたしの方へ向かってくるよ こんどは彼が取り押さえられる側になったよ
裁判長が言いかかった
「閉廷…」
『待て!』
ゲンムはその手話をね 裁判所の手話通訳者に観せるだけでなくてね
吠えた
センシティブの限りを尽くしていえばね ゲンムの吠えた声こそ気ちがいに聴こえたと思うよ
けれどもそれが気ちがいの奇声であろうはずがない
正義の咆哮
まさしく砲口から放たれた怒号とも呼べる咆哮
法廷の全員がゲンムの一声に気押されて手話通訳者はゲンムの手話をまるで一語でも読み損ねたら死ぬかのような緊張を持って読み取って
それを裁判長に耳打ちした
その間に妻子を殺された男性も 17歳の少年も 裁判所の全員が静けさを不思議なことに取り戻していた
ゲンムの咆哮の功徳によって
裁判長がまるで演説のような言葉をならべあげた
「法は不完全たる人間がそれでも正義を目指すための手段でなくてはなりません。私は子供の頃に法曹を目指したそれが出発点です。今5歳と16歳の少女がそれを思い返させてくれるような言葉を私に投げかけてきました。私はこの職務を遂行するその根本の目的は法によって正義を守ることです。裁判の再開にあたって被告人にどうしても確認せねばなりません。あなたはさきほど5歳の少女が言った言葉に心当たりはありませんか?」
「さ、裁判長がそんなこと言っていいのか!」
もうひとこえ
こんどはしずかに言うよ
「あなたのおとうさんおかあさん」
「うぅ…」
30秒間被告人は沈黙した
そうして言った
「5歳の時に両親が…している所を観た。その時に…のことを知って、ごう…暴行するやり方を覚えた。もういいから。どんな刑でも逃げないから。だから両親の…のことを思い出させないでくれ、おぞましくて気持ち悪くて死にそうになる」
タテマエの世は済んだよ
「ゲンム 行こうか」
『ああ 行くか』
今日は裁判の傍聴だよ
「では第一回の口頭弁論を行います 被告人弁護人は前へ」
促されて被告人の弁護人が歩みを進めた
女性弁護士だね
被告人本人はね
性別:男
年齢:17歳
罪状:暴行殺人
ふたり殺した
ひとりは成人女性
ひとりはその娘
燃やし尽くすような目で原告席で膝の上の拳を握っている男性の妻と娘をこの被告人は殺した
暴行したうえで
『ミコ 暴行の意味ってわかるか』
「うんわかるよ」
わたしは5歳だけどわからなくていいなんてことはないのであって
わからなければわかるように調べることがこの国ではできるのであって
ならば燃やし尽くすような目で観ているその男の人のわかりたいこともわかるように調べてあげないと
だからわたしはここに来た
「…以上のように被告人は事件当時、正常な判断能力を有しておらず、また未成年であり十分更生の余地を残すと考えられるものです」
「原告側弁護人 意見はありますか」
弁護士でなくその男の人が立ち上がった
「裁判なんかどうでもいい!私が今この場でちづるとレイサの仇を討つ!」
手に持っているのはペーパーナイフ
けれども目に突き立てることができれば致命にできると思う
当たり前のように取り押さえにかかる裁判所の職員たち そしてあっというまにはがいじめにされた
わたしはいまこそ時節到来したのだと5歳だろうがなんだろうがあらん限りのアドレナリンを出し尽くして怒鳴った
「コンドーム!」
ただ一声でその物体がわたしの言い間違えでないことを知らしめることができたとおもう
わたしはまだつづける
こわいけど
被告人の目をにらみつけて
「右ポケット!」
「な、ななななななに言ってんだよ」
反応あり
「右のヒップポケット!」
「こここここいつ、気が狂ってる。早く連れ出してくれよ!」
ばかだねえ
5歳のわたしをまともにこわがってるよ
お母さんの方を殺した時とおんなじでさ!
「薄さは・・・一番厚いやつ!」
「うおぃっ!」
奇声を上げて被告人の17歳がわたしの方へ向かってくるよ こんどは彼が取り押さえられる側になったよ
裁判長が言いかかった
「閉廷…」
『待て!』
ゲンムはその手話をね 裁判所の手話通訳者に観せるだけでなくてね
吠えた
センシティブの限りを尽くしていえばね ゲンムの吠えた声こそ気ちがいに聴こえたと思うよ
けれどもそれが気ちがいの奇声であろうはずがない
正義の咆哮
まさしく砲口から放たれた怒号とも呼べる咆哮
法廷の全員がゲンムの一声に気押されて手話通訳者はゲンムの手話をまるで一語でも読み損ねたら死ぬかのような緊張を持って読み取って
それを裁判長に耳打ちした
その間に妻子を殺された男性も 17歳の少年も 裁判所の全員が静けさを不思議なことに取り戻していた
ゲンムの咆哮の功徳によって
裁判長がまるで演説のような言葉をならべあげた
「法は不完全たる人間がそれでも正義を目指すための手段でなくてはなりません。私は子供の頃に法曹を目指したそれが出発点です。今5歳と16歳の少女がそれを思い返させてくれるような言葉を私に投げかけてきました。私はこの職務を遂行するその根本の目的は法によって正義を守ることです。裁判の再開にあたって被告人にどうしても確認せねばなりません。あなたはさきほど5歳の少女が言った言葉に心当たりはありませんか?」
「さ、裁判長がそんなこと言っていいのか!」
もうひとこえ
こんどはしずかに言うよ
「あなたのおとうさんおかあさん」
「うぅ…」
30秒間被告人は沈黙した
そうして言った
「5歳の時に両親が…している所を観た。その時に…のことを知って、ごう…暴行するやり方を覚えた。もういいから。どんな刑でも逃げないから。だから両親の…のことを思い出させないでくれ、おぞましくて気持ち悪くて死にそうになる」